第18話 ベスト4をかけた試合の終わり



 後半開始のブザーが鳴り響く。

 相手チームは既に俺達にダブルスコアの大差をつけているというのに、油断せずにベストメンバーを出してきた。

 こちらも若干の諦めムードが漂ってこそいるが、なんとか闘志を燃やしてベストメンバーで迎えうつ。


 平均身長はこちらが150cm程度なのに対し、相手は160cm以上。

 バスケの技術でもチームワークでも、そして選手層ですらも圧倒的に負けているが、それでもなんとか食らいついていく。前半でついた点差を縮め、逆転するために。



 こちら側からのスローインで始まった第三クォーター。

 まずは俺がボールを運び、あっさりとロングシュートを決めて見せ、点差を着実に二点縮めていく。

 が、相手も冷静に決め返してきて、点差をすぐに元に戻される。

 それからもディフェンスとオフェンスが交互に続いていく。

 相手が確実に得点を決めてくる中、こちらはキャプテン含めた他のメンバー達がオフェンス時に焦ってしまい、シュートを外したり、途中でボールをロストしたりしてしまう。

 そうなれば当然段々と点差が開いてくるが、何とか俺がスティールしたりして点を決めてその差を埋めていく。


 それでもこのままいけば逆転は不可能になってしまう。

 それでなくても現状ほとんど無理ゲーみたいな状況だ。故に俺はここからなんとか追いつくために後のことなど考えずに限界以上の力を出すことを決めた。


 勝てば次の試合が今日のうちにあるので、少しでも体力は残しておきたかったのだが、そうも言っていられない。

 ここで負けてしまえば、次の試合なんてそもそもなくなってしまうのだから、今出し切って、後のことは勝てた時に改めて考える。


 俺は他のメンバーを巧みに使いつつ、オールコートプレス(バックコートからのディフェンス)を駆使して何度も相手選手からボールをスティールしまくり、シュートを決め、得点を量産する。

 時たま相手選手からのファールを誘いつつ、三点プレーなども決めて、着実に点差を一点一点縮めていく。


 今日ここで力尽きてももはや悔いはない。残さない。


 第三クォーター残り四分からの俺は常に全力疾走を続けた。


 肺が痛くなってくる。足も棒のようになってきた。

 腕だって上に上げるだけでもキツい。

 口の中は常に血の味がする。


 それでも俺は止まらず動き続け、得点を量産し続けた。


 それでも尚、開き過ぎた点差はジリジリとしか狭まらず、第三クォーターが終わってもいまだ十五点差。


 オフィシャルを挟んで隣のベンチ側にいる相手選手をチラリと見る。

 俺達のようにコート内を必死になって走り回っていない為、まだまだ体力は有り余っている様子だ。


 一方でこちらは得点源の俺がガス欠寸前。

 他のベストメンバーもオールコートでディフェンスを続けた為疲労困憊といった感じ。

 それでも、第三クォーターが始まった時の諦めムードだけはなんとか解消できているのが唯一の救いだ。



「はあ、はあ、はあ……」


 休憩時間であるインターバルが終わっても、俺の体力はまだほとんど回復していなく、息切れ状態で第四クォーターが始まる。

 そうなれば当然先程までとは比べ物にならないほどパフォーマンスは落ちてしまい、点差こそ開いていかないが、いつまた引き離されてもおかしくないような状況が続く。


 そうして時間はズルズルと過ぎていき、試合時間残り三分を切り、点差はいまだ十三。

 そこでさらに追い打ちをかけるように、キャプテン以外のベストメンバー三人が体力切れを起こし、あえなく選手交代。

 こちらはまだまだ小学生から見てもちびっ子である下級生三人を加えたメンバーで戦うことを余儀なくされた。


 オールコートプレスを仕掛ける体力は既に残っていない。

 ハーフマンツーマンやゾーンディフェンスですら、小さい子たちを狙われて簡単に上からパスを通されて得点に繋げられる。

 オフェンスでも時たまボールを奪われるようになってきた。


 それでも俺は負けるわけにはいかないので、例え速く走れなくなろうと、テクニックで相手を交わし続けて得点を決め続ける。

 キャプテンもチームの纏め役としての力を見せつけるように俺と一緒に奮闘し、何度か相手選手からボールを奪うことに成功。

 下級生三人も、そんな俺達についてこようと必死にプレイを続けてくれる。



 しかし現実とは無情なもので、それでも一度ダブルスコアまで開いてしまった点差がゼロになることはなく、当然そうなれば逆転などできようもない。


 ビーという試合終了のブザーが鳴り響く。

 審判の笛を鳴らす音と試合終了を告げる声が耳の中を駆け巡る。


 隣からはキャプテンが泣く声が聞こえて来る。


 思わず天井を仰ぎ見る。


 終わってしまった。



 64ー75。


 結局俺達は十一点差をつけられ敗北。


 夏の地区大会、我がチームはベスト8にて、儚く散った。


 


 悔いはない。


 現状自分達ができるベストは尽くした。


 それで負けるなら、仕方ない。



 ああ……でも……やっぱり……。



 悔しいな、負けるっていうのは。




 こうして俺は今世で初めての敗北を味わうのだった。

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四つの特典でやり直し人生を謳歌する 葉素喜 @goto51022

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