第17話 ベスト4をかけた戦い(前半戦)


 ベスト8が出揃い、迎えた二日目の3回戦。

 対戦相手は強豪北斗インパルス。

 一回戦はシードで休み、2回戦はそれなりに強いチームに途中から控えを出しても尚八十点差をつけて圧勝するほどの実力といえば、凄さがわかるだろうか?

 さらにはベストメンバー全員が小学生にしては高い160cmオーバ。

 おまけに全員身体能力トップクラスで、バスケも上手い。

 極め付けには、控えの層も厚く、一番下手な選手でもこちらのキャプテンと同等くらい技量を持っている。

 ぶっちゃけ俺達が勝った西部キングよりも総合的に強いチームだ。

 前世では決勝でファールトラブルや怪我に見舞われてもギリギリの差だった。


 それでも最初から負けるつもりで試合には望まない。

 絶対に無理だと思われた西部キングにだって勝てたのだから、どんな理由があれどそこに負けていた北斗インパルスに勝てない道理はない。



 こうして始まった優勝候補との試合。

 ジャンプボールの相手は俺より二十センチ以上身長の高いガタイの良い背番号四番を背負う北斗インパルスのキャプテン。


 未来知で最適なタイミングで飛んだというのに、その圧倒的なフィジカル差に屈して相手ボールからスタートしてしまう。


 だが、高さで勝てなければテクニックで勝負すればいい。

 俺は即座にボール所持者からスティールをするためプレッシャーかけに詰め寄る。

 が、すぐに上からパスを通され、簡単にゴールしたまでボールを運ばれてしまい、そのまま楽にシュートを決められ、呆気なく先制点を奪われた。


 流石にこのレベルのチームが全力できたら一筋縄ではいかない。加えてうちのチームとは身長差がありすぎて相性も悪い。

 だが、それは最初からわかっていたことだ。


 それを理解した上でどうにかして勝つ。


 この世に不可能なんてないのだから、やってやれないことはないはずだ。



 まずは、きっちり点を決めて試合を振り出しに戻す。

 自陣エンドライン付近でボールを受け取った俺はゆっくりとドリブルしながらフロントコートに向かってボールを運んでいく。

 相手のディフェンス形態はハーフコートマンツーマンと呼ばれる、自陣コート内に入られてからマークに着くものなので、安心安全に運ぶことができた。


 だが、問題はそこからだ。

 俺をマークしてきたのは、先程ジャンプボールで競り合った高身長の相手チーム最強の選手。

 前世の俺では手も足も出なかった遥か雲の上のような存在だ。

 身体能力やバスケの技術は相手チーム一。中でもディフェンスは地区でトップオブトップの猛者。

 身体能力も身長も相手の方が上だが、俺には未来知がある。

 フェイントを巧みにかけていき、未来で簡単に止められてしまう未来が見えたので、それとは逆の方向にクロスオーバーを仕掛け華麗に抜く。

 だが、すぐに相手選手は体勢を立て直して俺の横にピッタリと張り付いてくる。

 そして前からは俺を挟み撃ちするかのようにもう一人のディフェンスが迫ってきた。

 当然そうなれば味方が一人ノーマークになるのだが、そこを絶妙な位置で残りの三人がこちらの四人を守っているためパスの成功率は良くて五分五分。


 このままでは不味い。


 なんて思って焦れば相手の思う壺だ。


 最初のマークを抜いた際に右サイドライン側にドライブしたため、左側に先程抜いたがすぐに追いついてきたディフェンスがいて、正面にもう一人のディフェンスが待ち構えている。

 このまま闇雲に突っ込むだけでは挟み撃ちにあってすぐにボールロストしてしまう。

 ならば策を講じればいい。


 俺は相手に挟み込まれるギリギリのところまでフルスピードでドライブをしかけ、直前でバックステップを踏み距離を取る。そしてその次の瞬間に二人の狭い隙間を潜り抜けるようにダックイン(低姿勢でのドリブル突破)を仕掛ける……と見せかけて直前で止まり流れるようなロールターンで左側に進路変更して二人のディフェンスを中央に向かって抜き去る。


 まさか俺がこの状況を簡単に打開するとは思っていなかったのか、相手選手の対応が少し遅れた。

 その隙をついて俺はスリーポイントライン一歩手前くらいでジャンプストップからのロングシュートを放つ。

 指先から離れる瞬間から入ると確信したシュートは見事ゴールリングに吸い込まれ、なんとか試合を振り出しに戻すことに成功した。


「ナイスシュート凛!」

「今のめちゃくちゃ凄かったよ凛君!」

「……うん、ありがと」


 同じコート内で戦っている仲間に祝福されつつ、今の攻防だけで今後の展開がかなり厳しいことになるのを再認識した俺は、その声に反応を返しつつも相手の次のオフェンスを守りきるために集中モードに入る。


 第一クォーターで少なくとも何点か差をつけないと、第二クォーターでとんでもない差をつけられて、後はそのままずるずるいってもおかしくない。

 そうなれば待ち受けている未来は敗北一つ。


 さらに気を引き締めてゲームに臨まなければいけない。



 だが、そんな思いとは裏腹に差をつけられることは叶わず、第一クォーター残り一分を過ぎたところでようやく二点リードの状況を作るのがやっと。


 それでもなんとか少しだけでも差をつけようと奮闘し、最後の最後でチャンスが訪れた。

 第一クォーター残り二十秒で相手のオフェンスを守り切り、二点のリードを保ったままこちらの攻撃。

 相手は時間いっぱい使ってオフェンスをしてくるだろうと若干気を緩めている様子だったので、俺はその隙を突き、一人で自分のマークとカバーに来たもう一人をドリブルで抜き去り、最後にブロックに来たディフェンスも躱しながら、ちょうどゴール下でノーマークになったキャプテンにパスを出す。

 キャプテンが落ち着いてゴールを決めて四点差。

 この時残り試合時間は五秒。

 後は相手が急ぎの攻めをして第一クォータ終了。

 俺達のチームは相手と同じくハーフマンツーマンの戦術をとっていたから、ゴールが決まった後すぐに最後の相手のオフェンスを守り切ろうと急いでセンターライン付近に戻っている。

 俺だって毎回ディフェンスになるたびに急いで戻っていた。

 しかし、今回だけは別だ。

 相手もまさか第一クォーターという序盤で、リードをしている選手が急にバックコートからプレスをかけてくるとは思わないだろう。

 だからこそ、隙が生まれ、そこを突つける。


 エンドスローでボールがコートに放たれるタイミングを未来知で先読みした俺は、その数舜手前でセンターラインに戻ろうとしたのをやめて一気にボール方向に向かってダッシュ。

 ボールをスローインしようとした選手は、俺が物凄い速さで迫ってくるのを見て慌ててしまったのか、若干想定していた位置からズレた場所にボールを放った。

 俺はそれすらも瞬時に未来知で先読みして、相手選手よりもいち早くボールの放たれた場所に到達し、見事パスカットに成功。


 その位置はちょうどフリースローライン手前で、俺が最も得意としているシュート角度だったため、すかさずジャンプシュートの体勢に入る。

 だが、そこでいち早く反応した俺のマークマンであった相手チームキャプテンがブロックに飛んできた。

 そのまま打っていれば間違いなくブロックに阻まれるだろう。

 しかし、当然それすらも先読みしていた俺は、寸前でフェイクに切り替え、ブロックに飛んだ選手を避けてゴールに向かってドリブル。

 だがすぐにエンドラインからスローインした選手がディフェンスとなって俺のシュートを阻むために近づいてきた。


 それでも俺は構わずレイアップシュートを放つためにステップを踏む。


 そのままいけば、高身長なディフェンスに楽にブロックされてしまうだろうが、ここで俺はシュートモーションに入った段階で一工夫入れる。

 相手がいる方に態と向かい、ブロックされそうになったところでダブルクラッチ(ボールを持っていた方とは逆の手に持ち替える態)を仕掛け、相手からの接触を誘発した上シュートを放つ。

 ぶつかることを計算に入れた上でのシュートは、不恰好ながら見事ゴールリングに吸い込まれ、二点が加算された。

 それとほぼ同時に第一クォータ終了のブザーが鳴るが、そこからさらに審判の笛が鳴り響き、ディフェンス側のファールが告げられて俺はバスケットカウントワンスロー(直前のシュートをカウントした上で更に一本のフリースロが与えられる)を獲得。


 クォーターが終了しているので、他の選手はベンチに戻るが、俺だけコートに残って与えられた一本だけのフリースローを行う。


「ふぅー」


 軽い深呼吸をして審判からボールを受け取り、冷静に最適なフォームでシュートを放つ。

 ゴールリングに触れることなくパサっと乾いたリングネットの音を響かせるような綺麗なシュートを決め、なんとか第一クォータでの差を七点つけるのに成功した。



「流石凛だな!」

「北斗インパルスに第一クォーターで差をつけられたのはデケェよ!」

「俺達このまま勝てるよな!?」


 当然強豪相手に公式試合でリードしているものだから、自陣ベンチは大盛り上がり。

 対して相手チームは監督が怒り狂って怒鳴り散らしている。

 対照的なインターバルの時間となったが、ハーフタイムになれば、今度はこの状況が逆転しているだろうことは容易に想像できる。

 何せこちらの第二クォーターメンバーは、以前よりも成長しているとはいえ、それでも北斗インパルスの選手と比べればいまだかなりの差があるのだからな……。



 そこから始まった第二クォータ。


 俺達の七点というリードは開始一分で呆気なく無くなり、さらに相手監督の激しい檄が飛び、相手選手の勢いはどんどん増していき、そのまま差はズルズルと開いて最終的に27ー54のダブルスコアをつけられて前半が終了した。

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