第16話 応援を力に


 ビーというタイマーの音が流れて程なくして、両チームの第一クォーター出場メンバーが出揃い、自陣ベンチ側コートこセンターサークル付近にて横並びになる。


 こちらのメンバーは以前の練習試合と変わらず、下級生三人とキャプテン、そして俺の五人。

 相手のメンバーはうろ覚えではあるが、前世と変わっていないと思われる。


 負けたとはいえ、前世ですらそこそこ接戦だった相手に今の俺達が負けるはずない。

 そんな確固たる自信を胸に試合に臨む。


 試合はジャンプボールからスタート。

 練習試合の時同様俺が飛ぶ。


 練習試合の時より相手は背も高く身体能力も高い上級生が相手だが、俺だって当然前回より格段に成長している。

 俺はジャンプボールが始まるタイミングを未来知で先読みし、見事相手より先にボールをタップして味方プレイヤーに渡せた。


 相手はまさか十センチ以上身長の低い俺が勝つとは思っていなかったのか、ディフェンスに入るのに遅れている。

 当然そんな隙を見逃すわけもなく、速攻をしかけてパスを受け取った俺が華麗なレイアップシュートを決めて早くも先取点を獲得した。


 自陣に戻る際応援者席がちらっと視界に入ると、そこには拍手をしてこちらのチームの点が入ったことを喜んでいる優菜の姿が見える。


 試合の最初から可愛い同級生が応援に来てくれているという前世ではあり得なかった出来事が俺の闘志にさらなる火をつけた。


 このままどんどん点取りまくってカッコいいところを見せる。


 そこからの俺はプロなどの選手がごく稀に起こす究極とも言える集中状態、所謂ゾーンに入っているといっても過言ではない活躍を見せた。

 ディフェンスをすれば、スティールでボールを奪取したりブロックで相手のシュートを弾き飛ばす活躍。

 オフェンスになれば中外ところ構わず放つシュートが全てゴールリングに吸い込まれ、得点を量産。

 もちろん、チームの味方へのアシストも行ってチームプレイを大事にしている部分もしっかりとアピール。


 その結果第一クォーターだけで、38ー4というもうほとんどこの試合の勝利は決まったと言っても過言ではないほどの差をつけるのに成功した。


 優菜ちゃんには時たまシュートを決めた時に、彼女だけに向けて小さいガッツポーズをしてアピールしたが、それをする度に尋常じゃないほどの喜びを見せてくれた。


 ちょっと可愛いが過ぎる。


 おかげで六分間ほとんど全力疾走していたというのに、まったく疲れを感じなかった。

 美少女は目の保養というが、まさか体力の回復効果もあるなんて、俺はこれまで知らなかったよ。


 その後に始まった第二クォーターでは、既に心が折れかけている相手であろうとみんな全力でプレーしてみせた結果、得点差はさらに開いていった。


 後半からはベストメンバー対決となり、俺が引き続き全力で活躍し始めたことでさらに得点差はどんどん開いていき、第三ウォーター終盤で七十点差ついたところで、俺含めたベストメンバーの面々は次戦に向けて体力温存するため、ベンチに戻る。

 そこからは控えの下級生達が頑張っているのを応援して、最終的には95ー55の四十点差の圧勝で一回戦を突破した。


 ただ、今日はこれで終わりではなく、この後にもう一度試合がある。

 ただ、二回戦の相手は実を言うと一回戦のチームよりもさらに弱かったりする。

 前世の俺達のチームでも勝てたのではないかというほどの弱小チームだ。前世では大会では当たったことがなく、また練習試合をしたことがなかったためあくまで予測でしかないが、大方間違っていないだろう。

 何せ、前世で俺達が負けた先ほどのチームと二回戦で当たってボロ負けしていたからようなところだからな。


 トーナメントの組み合わせの妙味というやつで、地区最弱レベルのチームが一回戦で戦った結果、二回戦に上がれたというだけ。

 本来なら前世の俺達と同じ一回戦負けが常のようなチーム。負ける可能性は1%もない。



 そんな予想の通り、俺達は結局後半戦でベストメンバーで戦うことすらなく、百点差近く差をつけての圧勝で二回戦を悠々と突破。

 こうして俺達はチームの歴史上でも数年ぶりとなる地区大会ベスト8進出を達成した。


 次の相手は、前世では常にベスト4に名を連ねた強豪、北斗インパルス。

 前世ではこの年の最高成績準優勝ながら、その実力は、地区ナンバーワンであり俺達が練習試合でなんとか僅差で勝利した西部キングとほとんど拮抗しているようなレベル。

 油断すれば負ける可能性は十分すぎる以上にあるだろう。


 だが、それでも俺達は負けない。


 そして俺にはまた新たに負けられない理由が追加された。


 その理由はズバリ、明日も優菜が応援に来てくれるからである。


 今日の試合観戦が楽しかったのか、明日も絶対応援に行くねと帰り際に話しかけてくれた。


 今日のように楽勝できる相手ではないことは百も承知。

 それどころか下手をすれば点差をつけられて負ける可能性だって十分ある。

 油断して俺が怪我するとか、ベストメンバーの誰かがファールアウトで退場なんかしたりすれば、勝利の天秤は簡単に相手に傾く。

 今日の試合結果を知っている相手が、練習試合の時の西部キングのような舐めプをしてくる可能性は低い。

 最初から全力の強豪とやれば、こちらの方が負ける可能性が高いのは当然の事実である。


 それでも俺には負けられない理由があるから、絶対に勝つつもりで試合に臨む。


 今日は相手にも恵まれてかなり体力を温存できたし、勝つ準備は十分整っている。


「負けてたまるかよ……」


 こうして、俺達のチーム史上初となるベスト4進出に向けた三回戦が幕を開ける。

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