第11話 運動会の終わり
徒競走で見事一着をとった俺は、その後も玉入れや大玉転がし、借り物競走なんかでも大活躍してみせ、昼までの午前競技において白組の勝ち越しに貢献した。
昼食は完全に来ている保護者の場所に移動しての昼食。
小学校や中学校の運動会で唯一楽しみだった弁当。仲の良い友人の保護者などと集まって楽しい食事となった。
昼休憩が終わると、一つ二つ低学年や中学年の子達の競技を挟んで、いよいよ赤白対抗選抜リレーの始まりだ。
リレーは男女別で行われ、各学年クラスから足の速い上位三人が選ばれ、俺は自分のクラスのナンバーワン。現状五年生のナンバーワンとしてその活躍を期待されている……はず。
各学年、各クラスから次々と誰かの名前を呼んで応援する声が聞こえてくる。
「さっきも言ったけど、負けねえかんなー!」
「わかってるって。勝負できるとも限らないけど、同じくらいで走ることになったらお互い全力で行こう」
同じ位置に待機している綾瀬川と会話しつつ、選抜リレーの始まりを待つ。
俺や綾瀬川は所謂アンカーと呼ばれる最終走者ではないので、勝負になるとしても限定的な形となるだろう。
同じタイミングで前の走者からバトンを渡される確率など、あって二割前後とかだ。
例え、どちらかが圧倒的に離れた状態になろうとも、お互い手加減して走ることはない。
これはチーム戦、個人的な理由で仲間に迷惑をかけるわかにはいかない。それはチームスポーツであるバスケをやっている俺もサッカーやっている彼も十分承知している。
だからこの勝負をするというのは、いわば互いを鼓舞してこのリレーを全力で楽しむための建前だ。
例えどちらかが最下位で走ることになろうとも、諦めずに自分の力を出すという架空の約束事だ。
そうしてついに始まる選抜リレー。
白も赤もお互いそれほど付かず離れずの位置で入れ替わり立ち替わり順位が変わっていく。
そして徐々にだが、白組が遅れをとっていき、ジリジリと差がつき始めてきた。
リレーが半ばまで至る頃には二十メートルほどの差がついてしまっている。
それでもそこから怒涛の追い上げを見せ、俺と綾瀬川にバトンが渡った時、その差は十メートルちょっとにまで迫っていた。
俺は少しでも綾瀬川との差をつめるために未来知を使い、最善のルート選択をして最速で次の選手の元であるゴールへと爆進していく。
綾瀬川は俺の認めるライバルであり、前世ではまったく足の速さでは敵わなかった選手だ。しかし、チート能力を解禁した俺にはそれでも一歩及ばない。
ズルだなんて言ってくれるなよ。これだって俺の力の一つ、実力のうちだ。
進んで進んで、残り十メートル付近でその差を後ニ、三メートルにまで詰めた。ここまでくればもう誤差の範囲。なんてくだらないことを考えない。ゴールを通過するまでは何が何でも全力だ。
このままでは走る前に差があったというハンデはあるが負け確定。
相手にはそもそもチート能力などないはずだから、そんなハンデはチャラとして考える。
ということはこのままでは俺の実力負けだ。
そんなの嫌だ。
負けてたまるか。
せめて追いつく、いや、半歩でも追い抜く。
俺は限界を超えて加速する。
今の俺は徒競走の時よりもさらに速くなっていた。
限界を超えた走りは肺を苦しめ、身体中の筋肉を痛めつけた。
だが、その甲斐あってか、俺はなんと綾瀬川に追いつき、最後の数歩で半歩よりも小さいが、確かに追い抜くことに成功した。
そのままの勢いで次の走者にバトンを渡し、俺の役目は終了だ。
これでもう悔いはない。
もし仮に白組が負けたとしても……いや、最初に自分で言ったことを反故にするわけにはいかないな。
「頑張れ白組ー!」
まだ息の整わない中、必死に自分の組を応援する。
せっかく少しとはいえ綾瀬川を追い抜いたのだから、白組に勝ってもらって完全勝利を手に入れたい。
そんな応援がきいたのか、その後の走者はジリジリと紅組と差をつけていき、アンカーに渡る頃にはその差を十メートルに引き離し、最終的にはさらに倍の二十メートルの差をつけて白組の勝利で幕を閉じた。
なるほど、思い返してみれば、前世のこの選抜リレー、俺とほとんど足の速さが変わらないやつが出てても、白組が勝利していた。
最後の応援は少し張り切りすぎたかな?
「お前、めっちゃ足速いな! お前のおかげで気持ち的に楽だったぜ!」
「応援聞こえてたよ。走った後だったのに良く大声出せたな」
「ナイスガッツ!」
そんなことを思っていたら同じ白組の上級生から声をかけられた。内容から俺の応援へのお礼といった感じ。
前世では関わりのない人物達だったので、名前とかはわからないし、今後また話すことがあるとも限らない。
が、なるほど。学年の垣根を越えて交流するのもなかなか悪くないと思った。
その後は運動会でお馴染みの組体操が始まり、最後にみんなでラジオ体操をして閉幕。
俺が過去に戻ってきて初めて打ち立てた目標は達成された。
リレー選手に選ばれて活躍。
徒競走で一着。
加えてどちらもで前世で敵わなかった綾瀬川を打ち破って達成だ。
努力は自分を裏切らないという言葉は絶対に嘘だと思っていた。
どれだけ頑張ろうと努力は簡単に自分を裏切る。そう思っていたが、少し考え直そうと思う。
たしかに努力をしても報われないかもしれない。
だが、成功するには確実に努力が必要であった。
人生をやり直して、過去を変えた俺だからこそ辿り着けた真理である。
もちろん、その努力に毎日のマスターベーション。所謂オナニー、可愛くいうならシコシコ運動が含まれていることは言うまでもない事実だ。
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