第9話 新たな趣味と来たる運命の日



 最近、一つ悩みがある。

 その悩みとは、ズバリ暇な時間が多いということだ。

 勉強は学校で頑張っているので、家では二時間もしない。

 運動だって練習がある日もない日も大体夕方にはやり終えている。

 シコるのだって五回全部合わせても大した時間はかからない。

 そうすると家で寝るまでに暇な時間ができるのだが、その時間にやることがあまりないのだ。

 一昔前のテレビは特に興味がそそられない。前世では漫画やアニメが好きだったが、今時期のものなんて前世で何度も見ているので、今更リアルタイムで追う気にはならない。

 もちろん一切見ないということはないが、やはり前世よりは明らかに見る時間は減っている。

 だから俺は何か新しいことを始めようと思った。


 そこで何を始めるかなのだが、どうせなら女の子からモテる趣味や特技になるのがいい。

 そう考えた時、一つだけ思いついた。

 前世では途中で飽きて挫折したギター。

 今世で改めて始めて、今度は女にキャーキャー言われるくらい上手くなってやろう。


 そう思いついたが早いか、早速入門用のギターセットをネットで購入した。

 エレキギタの入門セットで、ストラトキャスタータイプのエレキギター本体、シールド、アンプ、チューナー、ストラップ、ピック、ピックケース、スペア弦、ギターケース、六角レンチがセットになって驚異の一万二千円。お買い得が過ぎる。

 株式投資以外に残しておいた貯金で余裕で買える金額だったので、躊躇うことなく即購入。


 注文から五日ほどで商品が到着した。

 前世ではバンドアニメにハマって自分でも弾いてみたいと思い購入したが、思ったより難しく当時は仕事が忙しかったため練習時間も取れず、結局あまり上手くなることもなくすぐに部屋のオブジェと化したエレキギター。

 今世では前世の戒めを含め、同じ色のものを購入した。

 前世と同じものを使って前世よりも圧倒的に上手く使いこなし、ギターを弾くという行為を今度こそちゃんとした趣味として、そして特技に昇華させてみせる。


「じゃあ、母さん指導よろしく」

「任せなさい!」


 今世では練習環境からして違う。

 前世で始めたのが大人になってからだったため、経験者であるとはいえ実の母に成人した俺が直接指導を頼むのはとてもではないが、恥ずかしくて出来なかった。

 しかし、今世の俺は現時点で小学五年生になりたての子供。

 恥も外聞もクソもないので、何の躊躇いもなく教えを乞えた。


 そして教わる人がいるのといないのとでは、天と地ほどの差があると改めて実感した。

 前世の独学が如何に効率が悪かったか嫌でもわからせられる。


 前世での多少の経験があるのももちろんあると思うが、それ以上に指導者がいると成長速度が段違いだった。

 みるみると母から教わった技術を習得していき、前世での数ヶ月練習した実力になるのに今世では一週間もかからなかった。

 この習得スピードは射精強化による基礎スペックの向上や子供故の成長補正もあるだろうが、正確な技術を直接指導してもらえるという経験が一番の要素だと思う。


 そして、それだけ早く上達すれば前世ではあまり感じなかったりギター練習の楽しさがわかる。

 まだまだ曲を弾くレベルではないが、この調子で上達すれば近いうちに簡単な曲くらいなら弾けるようになるだろう。

 それまでは、ひたすら基礎練習あるのみ。

 ドレミファソラシドや、比較的簡単なオープンコード、ちょっと難しいセーハーコード、コードストロークなどなどをひたすら繰り返して実践していく。

 最初は出来ないのが当たり前。だからこそいつかできるように練習する。

 そして出来るようになればどんどんと次のステップへと進んでいき、いずれは曲が弾けるようになるまで上達するのを目標に頑張るのだ。


 こうして俺は新たな趣味を見つけて、一日の無駄な時間とも言える暇な時間を有効活用することができた。


 いずれは中学校や高校の文化祭で披露して、あわよくば女にモテるようになればいいなと思いつつ、毎日のように母にギターを習うのだった。



⭐︎



 ギターを始めてから早くも約半月が過ぎ去り、時は六月。

 春のポカポカとした暖かさが、夏特有の暑さに変わってきて、逆行転生後、一番のイベントとなる運動会が近づいてきた。


 前世では特に楽しみでもなかった運動会の日を今世の俺は心待ちにしている。


 これまでの三ヶ月間目標を定めて、それに向かってひたすら努力を積み重ねてきた。

 その甲斐あってか、既に目標の一つだった選抜リレーの選手に選ばれると家ものを達成できている。

 後はその選抜リレーで活躍するのと、徒競走で一着を取れば完全にミッションコンプリートだ。

 今回の徒競走の相手で一番の強敵は、前世で俺にかなりの差をつけて一着を取ったサッカー少年団に通う可愛い感じの顔をしたイケメン少年。

 前世でも今世でもクラスは違うが、それなりに仲の良かった男の子で、特に恨みはない。がしかし、ここで前世のリベンジをさせてもらう。

 毎日のシコトレのおかげで今の俺は前世よりも一割以上基礎スペックが向上している。加えて体力トレーニングや筋力トレーニングも欠かさず頑張ってきたから運動能力だって以前とは比べ物にならないほど高くなっている。

 これで負けたら何のためにこれまで散々努力を積み重ねてきたのかわからないじゃないか。


 絶対に負けない。

 彼には悪いが、前世とは逆に俺が差をつけて圧勝してやる。

 既に前世で負けたもう一人の少年など眼中にはない。

 敵は人生二回目でもないくせに運動もできて頭もよかった前世の友達ただ一人。



 俺は奴に勝つために、最後の追い込みに六月に入ってから毎日七回シコっている。

 少しでも身体能力や運動能力を高めるために。俺は今日もシコリ続ける。


「うおおおっ!」


 今の俺の右手を上下に動かす速度はきっと人類最速だろう。

 この調子で足の速さも学校最速となり、徒競走で一着になる。

 これだけ限界以上に頑張るのは、目標に定めたことを達成したいという想いが一番だが、もう一つだけ理由が存在する。


 それは、彼が前世で俺の今世での未来の彼女である(願望)水川優菜ちゃん、もとい優菜の想い人であったからだ。


 詳しくは覚えていないが、噂話で聞いたところによると運動会で活躍している姿がカッコよくて好きになったとかなんとか前世の中学生時代に聞いたことがある。


 今世でそんな未来はやってこないよう、彼には何が何でも負けられない。NTRなんて二次元でしか許されない。



 俺の彼女(違う)を友人から死守してやる! 絶対にだ!



 新たな決意を胸に日々トレーニングを積むのと同時に着々と時は過ぎていき、六月になつまてから数日が過ぎた今日、俺はついに運動会本番を迎えた。


「応援行くから頑張るのよ!」

「徒競走で活躍したら小遣いやるから頑張るんだぞ」


 家族の応援を背に、学校へと向かう。


 こうして俺のリベンジ劇場が幕を開けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る