第7話 勝利の外食


 試合終了のブザーとほぼ同時に得点を決めることをブザービーターという。プロの試合でも滅多にないプレイの一つで、それで試合を決めたならば最高にカッコ良く見える。俺は前世で何度もブザービーターを決めて劇的な勝利を演出することを夢見ていた。


 それは前世では結局一度も叶わなかったが、今世での初の練習試合で俺は見事ブザービーターでの逆転勝利を勝ち取り、一躍時の人となった。

 といっても、チームメンバーからもみくちゃにされているだけだ。

 すごいすごいと持て囃されて調子に乗りそうになるが、すぐに気を引き締める。

 これくらい当然、俺はまだまだやれるというクール感を演出する。何故ならここには女バスの面々もいるからだ。

 あわよくば次の登校日に俺の活躍と、それでも尚クールに振る舞っていた大人っぽさを可愛い女子に喧伝してくれることを期待して。

 別に女バスのメンバーが可愛くないと言っているわけではない。現に中には学校でもそれなりに人気のある女の子が数名所属している。ただ、俺のタイプではないというだけだ。

 同じクラスの女子もいるし、水川優菜ちゃんとも仲の良い女子なので、俺は大いなる期待を彼女にしている。大いなる期待には大いなる責任が伴うのだ。女子の噂拡散力で俺の活躍話を届けてくれたまえよ、田中さん。


 男子の練習試合が終わると、女子の練習試合の手伝いをする。

 クォーター間にするコートのモップ掛け、得点板の管理、試合時間や電子得点版の管理をするタイマーやスコアシートを管理するスコアラーなどを総じてオフィシャルと呼び、簡単に言うなら試合進行の手伝いが役目だ。


 そんな中での俺の役目は得点版管理兼モップ掛け。オフィシャルの中では一、二を争う楽なポジションだ。

 そこにいつも俺の後ろをついて歩いてくる後輩のちびっ子君を引き連れて、椅子に座りながら馬鹿話をしつつ、時たまある役目をこなしながら試合を見学する。


 こちらの女バスは男子と変わらず地区の中でも弱小チームで、対する相手は強豪と呼べるほどではないが、間違いなく中堅レベルには位置しているチーム。


 結果は特に大判狂わせがあるということもなく、トリプルスコア(点数差が三倍)以上をつけられて我が級友の所属する女子チームがボロ負けした。


 その後は片付けをみんなで協力して行い、最後に相手チームの監督に挨拶をしてアドバイスをもらって解散だ。


 今日は母親が試合を見にきていて、強豪チーム相手に自分の息子の活躍で勝利を達成したからか、めちゃくちゃ機嫌がいい。

 宝くじに当たった時と同じくらいハイテンションである。


 この感じだと多分外食決定だな。


 頑張ったご褒美に、寿司か焼肉間違いなし。


 こうして俺も母ほどではないがテンションを上げ、車の助手席に乗り込み晩御飯を楽しみに待った。


 それから時は経ち、時刻は午後七時過ぎ。

 予想通り今日の晩飯は焼肉屋で外食となり、家からは少し距離があるか、前世でも良く利用していた焼肉龍源という店に来ていた。


 このお店の特徴はなんといっても安くて量が多いこと。

 ホルモン一人前で百円なのだが、その量は他の店の二人前くらい。他のメニューも他店と比べれば割安で逆に量は多めという地元でも屈指の人気を誇る焼肉店だ。

 もちろん焼く方法は、炭火七輪。味も値段の安さからは考えられないほどめちゃくちゃ美味い。

 今日は俺の大活躍での勝利を祝しての焼肉パーティーなので、腹一杯肉を食いまくる。


 我が家は母と姉が少食なのだが、逆に俺と父が大食らいなのでちょうど中和されて平均的家族程度の食事量になる。

 今日も姉や母は大目に頼んだというのにあまり食べていない。

 その分俺と父が次から次へと焼けた肉を胃袋に収めていく。


 牛サガリ、牛タン、牛カルビ、ホルモン、鳥サガリ、豚サガリ、キムチ、オイキムチ、石焼ビビンバなどなど、もう食えない。なんならしばらくは焼肉食いたくないってくらいに大食いした。

 それでも家族四人で五千円ちょっと。前世の頃は値上がりしていてもっと高かったので、十数年前の外食の安さにびっくりした。

 そういえば、まだ消費税も5%なんだよな。

 俺が生きていた時代は10%だったが、この5%の差はかなりでかかったなと過去に戻ってきた今改めて実感している。


 だが、その程度の差など気にならないくらいに金を稼ぎまくれば問題ない。


 百億稼げば、百万や二百万の消費税なんていくらだろうが気にもとめなくなるだろう。


 その為にも、未来知を活用して沢山株式投資で稼がねばならない。


 なんなら消費税100%とかになってもいいくらいの金持ちを目指そう。


 絶対にそんなことにはならないだろうし、なるとしたらもう日本という国は崩壊しているだろうけど。


 そんな無駄なことを考えている間に我が家に着いた。


 さて、今日は試合でかなり疲れたのでさっさと風呂に入って寝よう。

 明日は学校の日で、早起きしなければいけない。


 願わくば、俺の大活躍話が噂となって女子から、具体的には水川優菜ちゃんからチヤホヤされることを期待して、おやすみなさい自分。

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