第6話 初の練習試合(後半戦)
後半戦。出場メンバーは、両チーム前世と変わらぬベストメンバー。
もっとも前世ではこのチームが俺たち相手にベストメンバーを出してくることは一度もなかった。
それでも点差は五十以上ついていたのだ。もし仮に出てこられていたとしたら小学生の行うミニバスでは珍しい百点ゲームをされていただろうこと間違いない。
だが、少なくとも今世ではそんなことにはならない。現に前半終わっての点差はまだ二十もない。第一クォーターだけで考えるのなら逆に同じくらいの点差をつけられたのだから、ここから追いつき逆転することだって十分可能な範囲である。
俺と一緒に活躍できたことでキャプテンのやる気は逆転された今も十分。他の三人は先程ボロクソにやられたので今も諦めムードだが、それでも俺が頑張りキャプテンが他のメンツを引っ張ってくれれば戦えるはずだ。
こうしてスタートした後半戦。
オフェンスでは俺がシュート成功率100%という脅威の活躍を見せ、チームメイトがシュートを外したとしても高確率でリバウンドを取りセカンドチャンスに繋げてなんとか得点を量産できた。
対してディフェンスでは俺のいる場所からを常に避けられ、外からのシュートを使い相手が得点を重ねてきた為、思った以上に点数を取られてしまう。
それでもゴールから遠い場所からのシュートばかりのため、いくら強豪といえど決定率はゴール付近のシュートと比べれば圧倒的に低い。
そして、第四クォーター残り一分でようやく58ー60の二点差にまで追い詰めた。
なんとかその次のディフェンスで守り切り今度はこちらのオフェンス。
相手はここに来てついに完璧に俺を抑える為に二人でボールを持っていない俺にピッタリと張り付き、パスすら受け取れないようなディフェンスをしてくる。
他の残り三人で自分達よりも多い数となる四人を抑えられると思っているのだろう。結果から言うと簡単とはいかずともしっかりと抑えられていた。
シュートにまでも持ち込ませてもらえていない。
俺もなんとか二人のマークを外そうと動いているのだが、俺が受け取れると思ってもチームメイトが二人に張り付かれる俺にパスを出すのを躊躇する為、なかなかパスは回ってこない。
一回のオフェンスで三十秒以内シュートを打ってリングに当てなければ、三十秒バイオレーションという反則を取られ、攻撃権は相手に移る。
そしてもう残り時間は三十秒と少ししかないため、そうなってしまえば逆転することはほぼ不可能だ。
最初は諦めムードだった他の三人も今では地区の最強候補チームと接戦に持ち込めているため、皆勝つ為にプレイしている。
俺だって今世に戻ってきて散々努力もして、チートだって出し惜しまずに全力で勝ちに行っている。
それだけの違いを生み出しても、弱小チームでは強豪には勝てないのか。
そんなことはない。
そんなわけない。
諦めてたまるものか。
ここで俺が元来負けず嫌いであったことを久しぶりに思い出した。
大人になってから競争とは離れた場所で生き、過去に戻ってからはチートを使えば負けるような事態にも陥ることはなかったので、俺は忘れていたのだ。
対して好きでもないバスケを親に言われたから続けていたのももちろんある。
それが根底だったと言っても過言ではない。
だが、それと同時に俺はいつまでも負け続けているままなのが……何より負けたまま途中で投げ出すのが嫌だったのだ。
結局、小学校を卒業して、中学高校とバスケを続けたが、大会では決勝どころかベスト4にすら入ることは出来なかった。
だから、俺は勝ちたい。何がなんでも勝って証明するのだ。
前世のような道のりは歩まないことを。
ここで強豪を打ち破り、証明してみせる。
「ヘイッカズ君!」
そう決意を新たに固めたところで、一瞬の隙をついて二人のマークを振り切り、ボールを保有しているキャプテンの名前を呼んでパスを要求する。
彼自身もちょうどパスのターゲットを探して俺を見ていたようで、タイミングは丁度良く、俺に最高のパスを繋いでくれた。
時間は残り36秒。今から点を決めて次のディフェンスで守り切れば、残る時間は大体最悪三秒前後になる。それだけの時間があれば逆転に繋げられる。
俺はパスを受け取ると、ミニバスのルールにはないが、ラインはしっかりと引かれているスリーポイントラインの後方一メートルの場所からロングシュートを放つ。
前世でも得意だったシュートで、今世でも記憶を取り戻しチートを授かった時から、その力を有効活用してさらに磨きをかけた俺の必殺技だ。
この試合ではカットインからのゴール下付近でのレイアップやジャンプシュートが大半だったため、相手は反応すらできず、ブロックにすら飛んでこれていない。
そうして完全にフリーの状態で、完璧なタイミングで放てた俺のロングシュートは見事ゴールネットに吸い込まれた。
これで、同点だ。
「ディフェンス集中!」
同点になったと同時にキャプテンが皆の心を引き締める為に大声を出す。
小学生だというのに、なかなかの強メンタルで頼もしい。
前世で俺は彼をとても慕っていた。
過去に戻り随分前に関わりもなくなった俺はその理由はほとんど思い出せなかったが、きっとこういったみんなを引っ張るリーダーシップに憧れたんだと、今ではよく思い出せる。
「止めるぞ!」
「ここまできたら勝つ」
『ディフェンス! ここ止めよう!』
コート内にいるチームメイトも、ベンチから応援しているチームメイトも、最初の諦めムードなんてかけらも感じさせない気迫がその声にはこもっていた。
そうだ、誰だって最初から負けたいわけじゃない。
勝てる可能性が少しでもあるなら、その可能性を信じてみんなで一致団結できるのだ。
始まる前と百八十度変わったみんなの勝ちたいという気持ちを無駄にしない。
そこからのディフェンスは試合終盤だと言うのに、全員が今日の試合一番の動きを見せた。
相手は苦し紛れのシュートを放ったが、当然そんなシュートが決まるはずもなく、チームメイトが相手選手に競り勝ちリバウンドを制する。
そこで残された秒数は五秒。
ギリギリだが、俺ならなんとか運んで点を決められる。
俺はすぐ近くにいたボールを保有しているチームメイトに声をかけて手渡しでボールを受け取り、ドリブルを開始する。
相手は既に三人自陣に戻って俺を待ち構えていて、対するこちらはディフェンスに力を使い果たしてしまい、俺よりも早く動いている選手はいなく、1対3の圧倒的不利な状態で攻めなければいけない。
それでも負ける気はしない。
相手が三人いようが、俺の力の前では無意味だ。
まずセンターサークル付近で待ち構えていた一人を右に抜くと見せかけたフェイントを入れて左にクロスオーバーで切り替えて抜く。
もちろん未来知を使っている状態なので、抜けないかもしれないなんて不安はなく、安心して全力疾走でぶち抜けた。
ここで残り秒数は三秒。
相手は一人を一瞬で抜かれたため、急いで二人で俺を止める為にスリーポイントライン付近で腰をしっかりと落として俺を待ち構えている。
だが、それでは俺を止められない。
俺は態とらしくならないよう、左右に何度もフェイントをかけまくり、ゴールなど見ずにこれからお前達をぶち抜いてやると全力で気迫を込めたドリブルを仕掛ける。
どちらに来てもいいよう、二人はさらに腰を落として絶対に抜かせないという気概を見せてくるが、それが今回の敗因だ。
俺は二人の手前でストップ、それと同時に未来知を使いいつも通り自分がどうやってシュートを放てばゴールに入るのかを確認し、最良のフォームとリリースタイミングをトレースし、今試合二度目取るロングシュートを放つ。
ゴールに向かうボールがスローに見える。
決まる未来は既に見た。
後はただ、そのボールの放物線という軌道を確認するだけ。
ーーパシュッーー
乾いた音が聞こえた。
それは勝利の福音。
バスケットボールがゴールリングにすら触れずネットを綺麗に通った時にだけ聞こえる音だった。
ブブゥーという試合終了のブザーがなり響き、同じタイミングで審判のピーッという笛を吹く音が流れる。
得点ボードが遅れて60ー60から62ー60に切り替わる。
こうして俺達は見事今年初の練習試合で、地区最強のチームから勝利をもぎ取った。
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