第5話 初の練習試合(前半)
五月に入ってから早くも半月の時が過ぎた今日、俺は新チームになってから初となるバスケットボールの練習試合を迎えていた。
相手は毎年必ず地区大会ベスト4に入る強豪で、前世のこの年は一度地区優勝して全国大会にまで進んだチーム。
対して我がチームは毎年一度勝てれば良い方の弱小で、前世のこの年は大会や練習試合全てを足しても二回しか試合で勝てなかったチーム。
練習試合とはいえ遥か格上との対決に早くも我がチームのメンバーはやる気がない。
唯一キャプテンである最上級生の先輩だけはなんとか一矢報いたいと闘志を静かに燃やしているが、他のメンツは既に諦めムード全開である。
最上級生である残りの二人くらいやる気を出して欲しいものだが、実力差がやる前から圧倒的にあるし、何よりまだ小学生でメンタルも強くないだろうから仕方ない。
ここは俺が頑張って食らいつくしかないな。後はキャプテンも。
この当時の小学生の行うミニバスは、一クォーター六分の四クォーターせいで、全てのクォーター通して出場できることはなく、前半はどちらかのクォーターのみ出場、後半は全部でられるというルールが適用されている。
それゆえに前半はベストメンバーが分けられていて、後半にベストメンバー全員が揃って出場するというのが大体のチームの戦術だ。
格下相手にはそもそも一度もベストメンバー全員を揃わせずに分散させ、体力を温存するという戦術を取ることもあり、何を隠そう俺たちのチームはその戦術を頻繁に使われても尚ボコボコにされるというのが大半であった。
だが、過去の記憶を持つ俺がいるのだから前世のようにはいかない。
少なくとも俺が出ているうちは舐めプされないくらいに圧倒してみせる。
故にチート全開で練習試合に臨む。
ずるいなんていうなよ? これも俺の力だからな!
こうして、俺の今世初となるバスケの試合がスタートした。
第一クォーター。
俺達のチームは、ベストメンバーである俺とキャプテンに三人の新小学四年生(バスケ経験半年)の編成。
対する相手チームは、なんとベストメンバー
なしで全員が控えの選手。それも俺と同学年の奴は一人で、他は全員年下の編成だ。
中々の舐めっぷりだが、これでも前世ではボコられていたのだから仕方ない。
こちらとしては最初のうちに点差をつけられるので好都合だ。
お互いセンターサークルの手前に並んで礼。
そしてジャンプボールというセンターサークルに引かれているラインを挟み両チームから一人ずつが向かい合い、間に審判がボールを上に投げて、互いのチームメンバーがいる方向にタップすることから試合が始まる。
今世でも前世でもチーム内で一番大きい俺が出て。相手からは同い年の俺よりもデカい少し太めの少年が出てきた。前世ではずっと控えだった奴だが、それでも強豪チームの選手なので普通に上手いし、身体能力も高い。
だが、今世の俺は前世よりも遥かに上手いし、身体能力だって高い。
そうして始まったジャンプボールの結果は、身長が五センチ以上低い俺の圧勝。
こちらの世界にきてから毎日ようにトレーニングして、シコった甲斐があった。
俺がタップしたボールはキャプテンに渡ると、そのまま速攻で相手コートに攻め入る。
ただ、相手の歳下君達は俺やキャプテンよりも歳下だが、幼い頃からバスケを習っているため経験年数では同じくらい。故にキャプテンとの力量は拮抗していて、二人がかりでら止められてしまった。
がしかし、そこで終わりではない。
俺はすぐにキャプテンの後方に移動して、パスを要求。
苦し紛れのパスで取りづらさはあったが、しっかりとキャッチできた。
俺はパスをキャッチするのと同時にいつもの練習ですっかり使うのに慣れた未来知を使って相手の動きを先予見してあっさりと抜き去り、某漫画では庶民シュートと呼ばれたレイアップシュートを決め、先制点をもぎ取るのに成功。
得点は全てが2ポイント制なので、2ー0となる。
キャプテンとハイタッチしつつ自陣に素早く戻りお次はディフェンスだ。
俺たちのディフェンスは、一人一人が相手チームの選手にマークに着くマンツーマンディフェンスではなく、自分の決められた範囲をお互い埋め合うように守るゾーンディフェンスというもので、その中でも2・1・2と呼ばれる型をとっている。
中心に俺が立ち、俺を中心にバツ字型になるような陣形で、外は他四人が積極的に守り、中は俺が食い止めるような感じだ。
ただ、まだ練習し始めて間もないのに加え、そもそもまだバスケ自体半年しか経験のないメンバーが過半数を占めるために簡単に相手選手に抜かれてしまい、早くも陣形は崩壊した。
ドリブルをしながらカットインしてきたのは、先程俺が抜き去った同い年の選手。
俺から点を取り返したいのかわざわざ相手の方から俺に向かってきたので、ありがたくボールをカットさせてもらう。
攻めの時同様未来知を使って先予見して華麗にボールをカット。そのまま自らドリブルでボールを進め、キャプテンと俺対相手一人の形を作り、ゴール手前でシュートフェイクを入れ、キャプテンにパス。キャプテンは危なげなくボールをキャッチしてそのままレイアップシュート。見事シュートは決まり、これで4ー0だ。
相手は格下チームだから控えでも圧倒できると思っていたのだろうが、出鼻をくじかれた結果、早々にタイムアウトを宣言した。
まだ試合が始まって一分も経っていないのにえらい慌てようだ。
この後はおそらく相手が俺に対抗して数名ベストメンバーの中から選手を控えと入れ替えてくるはずだ。
毎年全道に出ることを目標にかかげているチームが、練習試合とはいえ格下に負けるなんて最悪の結果だろうからな。その為にも俺を抑える必要がある。
ただ、今の俺は圧倒的に身体能力の差があるような相手でなければ先程と変わりない結果を出すことが可能だ。そして相手には前世の頃の記憶でうろ覚えだが、そこまで身体能力が抜きん出ている選手はいなかったと思う。
故にベストメンバーを出してきたところで、俺を止めることは出来ない。
そんな俺の予測通り、タイムアウト後に相手の下級生二人がベストメンバーである最上級生と入れ替わり、ダブルマークで俺を抑えようとしてきた。
しかし、一人が二人になったところで、未来知を持つ俺には関係ない。
(俺を止めたいなら四人同時くらいやらないといくら強いチームでも止められないよ)
それからも俺はオフェンスで積極的に点を取りに行き、ディフェンスでは何度も相手を止める大活躍をして、第一クォーターを22ー8と大きく点差を開くことに成功した。
そして俺個人としては、一クォーターだけで16得点8リバウンド7スティールという前世では考えられないほどの脅威の結果を叩き出した。
ただ、その後第二クォーターで点差は呆気なく逆転する。
相手チームが本気になり、ベストメンバー残り三人に加え、控えの中でもベストメンバーとそれほど差のない二人を入れた編成で出てきたからだ。
こちらも最上級生二人に俺と同級生で俺よりも一年以上バスケ経験の長い少年もいたのだが、相手の方が圧倒的に上手く、こちらの弱点である下級生のところも狙われた結果、前半が終了した時には、24ー40という先程こちらがつけた差をわずかながら上回られる差をつけられてしまうのだった。
そして、ベストメンバー対ベストメンバーの後半対決が始まる。
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