第2話 ナンバーズヨン




 バスケの練習から帰宅してしばらく経ち、自分の部屋のベッドの上に寝転がりながら俺は金を稼ぐ方法を考えていた。


 今の俺は小学四年生なので、競馬や競輪、競艇といった公営ギャンブルは当然年齢が足りず法律に引っかかるのでできない。パチンコやスロットも同じく無理だ。

 未来知なんて前世での趣味だった競馬に最適な特典なのだが、犯罪を犯してまでやりたいとも思わないので大人になるまで我慢しておく。


(でもたまに親に連れてってもらって親に馬券を当てさせるくらいはやってもいいよな?)


 それなら俺は予想するだけで馬券は購入したことにならないし、金も親のものになるから法律的にはセーフだろう。

 事前に当たったら美味い外食に連れてってもらうとか小遣い貰えるように言っとけば十分俺も得できる。


「ってそうじゃなくて金稼ぐ方法だよ」


 思わずセルフツッコミをして話を戻す。


 ギャンブルがダメなら、残る方法は、投資か宝くじぐらいになる。

 FXは十八歳未満できないが、株は小学生でもできたはずだし、宝くじに至っては親が一緒にいれば購入できるのは前世で証明済み。

 ちょうど前世の今頃に母が宝くじにハマって、俺も何回かそれに付き合ってお小遣いを使って買ったりしていた。もちろん一度も当たらなかったからすぐに買わなくなった。


 となれば、まずは宝くじで高額当選を当てて、それを元手に株式投資を始めるのが一番効率がいいかな?

 これまで貯めた小遣いやお年玉は十万もないからそんなミソッカスな金で株始めたところで利益が沢山出るのには時間がかかるだろうし、それしかないな。


 結論が出たところで今日はもうすでに夜の9時を回っていて宝くじは購入することができないので、明日の放課後に母に頼んで買いに行くことにして、俺は日課にすることに決めた自慰行為を親に隠れて済ませ就寝した。



⭐︎



 翌日、朝に日課を済ませる。

 これで昨日と合わせて計六回、0.12%基礎スペックが上昇したことになるが、やはり実感は全くない。

 それでも未来知は確実に使えているのだから、射精強化だって当然機能しているはずだと信じて今日も俺は朝の身支度を整えてから登校する。

 放課後には宝くじを買いに行くと言う楽しみなイベントがあるので、昨日よりも一日のウキウキ感が強い。

 それに今日は体育でバスケがあるからクラスメイトの女子にアピールのチャンスもある。

 もっとも今のクラスメイトに俺が好きだった女子はいないので、クラスメイトが人伝に俺の活躍を吹聴してあわよくば可愛い女子に噂が届けばいいというかなり遠回しなアピール方法だけどな。


 そんな思惑の中迎えた体育の授業。俺は大人気なく十年近く経験したバスケのスキルを遺憾なく発揮して大活躍して、男女問わずクラスメイト達から盛大に持て囃された。

 当然早く慣れるためという理由で未来知も発動している。それでも後悔はない。未経験者相手に大人気なく無双する、俺はそういう人間だから。


 楽しい楽しい体育の時間が終わると、お次は給食の時間。

 俺は前世では朝食抜き、給食は半分残し、夕飯は沢山というそれはもうバランスの悪い食生活を送っていた。おまけに私生活は夜更かし大好きで運動はバスケ以外ではほとんどしないという怠け者を地でいく人間であった。

 それでも身長は177cmまで伸びたのだが、俺はいつも思っていた。

 子供の頃からしっかりとした食生活をして健康を意識して生活リズムを整えていたらもっと身長が伸びたのではないかと。

 男でバスケをやっているものなら、基本高身長に憧れる。バスケがそこまで好きではなくとも高身長は憧れ、俺だってそのうちの一人であった。


 幼い頃の夜ふかしの原因は漫画を読むのが好きだったためで、食生活に関しては食べなくても対して困ることがなかったのが主な要因だ。


 前世ではやり直しなんて不可能だと思っていたのであくまで夢想するだけだったが、過去に戻れた現実の今、それをやり直すチャンスが今目の前にあるのであれば、俺は迷いなく実行する。


 というわけで、俺は過去に戻ってきたその次の日から健康を意識した生活を行うことにした。

 朝は早起きして軽いランニングと筋トレ。朝食はしっかりと食べるようにし、もちろん今の給食も完食するため頑張って残さず食べている。

 ぶっちゃけ給食は久々であってもあまり美味しくはないと改めて思ったが、やはり残さず食べるというのは大事なことなので、我慢して完食した。



 給食後は、食後の運動がてらグラウンドに出て同級生達と鬼ごっこに興じる。

 鬼ごっこなんて中学生以来、年数にして軽く十年以上振りだったので、つい童心に帰って全力で楽しんでしまった。いや、そもそも今の俺は子供だから童心に帰るもクソもない。だって子供だもの。


 昼の休憩時間が終わり始まった午後の授業は一時間だけ。授業自体の時間も40分という短い時間で終わるので、あっという間に放課後となった。


 急いで家に帰ってきたが、そもそもまだ母親が仕事から帰ってきてなかったので宝くじは買いに行けなかった。

 仕方なくトイレに向かって帰りがけに一発シコリ抜き、宿題をやりながら母が帰ってくるのを待つ。


 それから一時間ほどが経ち、ようやく待ちに待った時間となる。


「母さん宝くじ買いに行こうよ!」


 帰ってきてそうそうに本題に入る。変な探りや前置きなんて子供の俺には必要ないのだ。


「宝くじ? いきなりどうしたの?」

「さっきテレビでやってて買いたくなったから行きたくなった!」

「ふーん、まあいいけど。お母さんもそろそろ当たる予感するし」


 そんなこと言ってるが前世で当ててるのを見たことは一度もない。

 きっと今世でも当たることはないだろうがしかし、それは前世の記憶を持つ俺がいなければの話。

 俺は心優しい人間なので幸せを家族に共有してあげるため、こっそりと母親分の当たり券も購入してあげる予定だ。

 別に俺だけ当たった場合親に金を取られるかもしれないなんて思ってもいないし、心配していないからそこのところは勘違いだけはしないでほしい。


「一体俺は誰に言い訳してるんだ」

「なんか言った?」

「いや、なんでもない。それより早く行こうよ!」

「はいはい、わかったからちょっと待ちなさい」


 アホなことを考えていたら思わず独り言として呟いてしまい、母親に聞き返されたので慌てて誤魔化してことなきを得る。


 それから大体十分くらいで母親の準備が終わり、俺は母の車の助手席へと乗り込み、近くの宝くじ売り場に向けて出発した。


 そして売り場についてそうそう、俺は未来知を発動してあたり番号を調べる。

 買う券種はナンバーズヨン。

 0〜9の中で四つ番号を組み合わせて買うもので三つ買い方があり、一つ目がストレートという番号が順通りに当たれば百万前後。

 二つ目がボックスという順不同でも番号さえ当たっていれば四万前後。

 最後の三つ目がセットというストレートとボックスを半分ずつに分けて買う方法で、これは大体当たった方の半分程度が当選金額となる。


 俺が買う方法はもちろんストレート一択。


 前世では累計して一万近くこの宝くじに貯金していたので、今世でそれを百倍にして返してもらう。


 未来知でわかった数字は、4875。


 未来知が絶対に外れないことはバスケのプレイに使えていることで証明しているので、安心して母の分と合わせて二口買う。なんとなく一通りだけ買うのは謎の後ろめたさがあったため、4876という外れ番号も二口分買い、合計八百円の出費。

 俺の小学生時代の一月の小遣いは千円なので、そのほとんどをつぎ込んだことになる。

 もっとも必ず当たるとわかっているので、小遣いの心配はしていない。

 ちなみに母は俺と違う番号で十通りをそれぞれ一口ずつ、合計十口購入していた。


 見た感じかすりもしていなかったが、俺の当たり券を一口あげるから安心して当たった気でいるといい。



 その後は宝くじ売り場のあるスーパーで買い物を済ませてから帰宅して、ちょうど夕飯を食べ終わったところで当然番号の抽選がスタートした。


 未来知が絶対であることは確信しているのだが、やはり抽選がスタートするとドキドキしてきた。


『4』、『8』、『7』


 次々と未来知で知った番号が選ばれていき、運命を決定づける最後の番号が決まる。


『5』


 そして無事に俺は二口分宝くじに当選した。


「あーダメだったわ」


 母がかすりもせず外れていたのでため息混じりにつぶやいた。

 そもそも本心では大して当たると思っていなかったのだろう。声音や表情からはやっぱりか的な心情が簡単に察せられる。

 ここで大サプライズで超エキサイティングさせてあげよう。


「当たった! 母さん俺当たったんだけど!」


 心の内では平静を装っていたが、いざ言葉に出そうとするとだんだん興奮してきて、俺自身もエキサイティングしてしまった。

 クールになれ、古城凛。


「え? 嘘でしょ!?」


 冷静になろうと深呼吸しようとしたタイミングで今度は母さんのテンションが上がる。

 そして驚愕の表情を浮かばせながら俺の手元にある宝くじを見て、番号を確認して、テンションは最高潮に達した。


「すごっ! まじで当たってるじゃん! 凄い凛! しかも二口ってこれ二百万くらいになるってことだよ!?」


 セリフにすれば!の数がとんでもないことになっていそうなくらいはテンション高く語尾が強い。人間近くに自分よりも慌てている人がいると逆に超冷静になるというが今の俺はまさにその状況にある。


「落ち着いてよ母さん。なんか当たる気がしたから母さんの分も買っといたんだ。だから一人百万ずつだね」


「えっ! うそっ!? 本当に! ありがとう凛! さいっこうの息子だよー!」


 なんとも現金な母に抱きつかれつつ、こうして俺は現金百万円分の宝くじをゲットしたのであった。


 ちなみに、この時父と姉は姉の塾の送迎によりいなかった為、宝くじの件は二人だけの秘密にしようということになったのは別の話。

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