四つの特典でやり直し人生を謳歌する
葉素喜
第1話 逆行転生【2006年3月】
俺は死んだ。間違いなく死んだ。
死の瞬間をはっきり覚えている。
二十五歳になってしばらくして、餅が食べたくなってきな粉餅にして食べたのだが、あまりにも腹が減っていたため大量に頬張ってしまい、そのまま餅を喉に詰まらせて窒息死。
息が出来ずに死ぬかもしれないと焦った。
どんどん苦しくなりやがて意識が朦朧としてきた。
どうにか詰まった餅を取り出せないかとその場で背中から床にダイブしたりしたりした。
それら全てを覚えている。
だから俺は死んだはずだ。
だが、俺は何故か生きている。
だが先程までの自分としてではない。
なにせ今の俺の身体は明らかに小さい。
パッと見た感じ小学四、五年生の時くらいの身長だ。
鏡を見れば、子供の頃の俺の見た目。
部屋に貼ってあるカレンダーは2006年三月を示していた。
俺の誕生日は二月で早生まれなので、小学四年生の終わり頃ということになる。
「逆行転生ってやつか? 今流行りの」
最近流行りのタイムリープ漫画みたいな不可思議現象が現実に生きる俺に起きた?
ありえない。タイムリープなんて物語の中だけの話だ。
……だが、実際俺は間違いなく小学生の頃に逆行転生している。
ありえないなんてありえないなんていう有名な漫画の名台詞が間違っていなかったことを俺自身の人生で証明してしまったということだ。
でも、もしかしたら夢の可能性もまだあると思ったので念のため自分の頬をつねるという古典的な確認方法を試しておく。
「いひゃい……」
念のため強めにつねってみたが、確かに痛みを感じたのでこれは間違いなく現実だとわかった。
現状を理解したところで、視界の端に小さく『!』が点滅しているのが見えた。
俺はなんだろうかと思い、なんとなく触れてみる、すると……。
『おめでとう人間。君は幸運にも私に選ばれ人生をやり直す機会を得た。といっても、何の特典もなければ君のような残念な人間では大して変わらない未来を歩むだろう。故に君にはランダムで四つ転生特典を与えているから有効活用してせいぜい人生を楽しみ謳歌してくれ』
そんな文章が目の前に現れて読み終わったと思ったら突然跡形もなく消えた。そして次の瞬間には頭の中に四つの特典の情報が流れ込んできた。
『射精強化』
・射精をする度に基礎スペックが上昇する。
『未来知』
・知りたい未来を完璧に知ることができる。
『鑑定眼』
・視界内に存在する万物を対象に詳細を調べることができる。
『常識改変〈ハーレム〉』
・所持者が多数の異性と関係を持つことを他者は気にしない
まさかの特典あり転生であった。
しかもどれもがこの先生きていく上で便利そうなものばかり。
未来知があれば金は稼ぎ放題だし、常識改変〈ハーレム〉なんてものもあるから上手くいけばモテまくって男の夢であるハーレムが実現できる。
俺は聖人君主のような人間ではないし、この力を己の欲望を叶える為に有効活用することを決意した。
「神様だって有効活用しろっていってたしな」
こうして俺の四つの特典をもらった上でのリスタート人生は幕を開けた。
「とりあえずシコるか」
そして、その第一歩は自慰行為だった。
⭐︎
一夜明け、十数年振りの小学校に登校する。
前世では小学校時代なんてろくに身だしなみを整えなかったが、今世での今日からはしっかりと洗顔、歯磨き、寝癖直しに髪型を整えてかは家を出た。
もちろん家を出る前に一回トイレでシコっている。
記憶を取り戻した直後の昨夜は二回、今朝の一回で合計三回シコったことになる。が、今のところ大した変わりは実感できないが、それは仕方ない。
何せ、一回の自慰行為での上昇率は0.02%しかないからな。この数値だけ見ると低く感じるかもしれないが、俺はこの数値が低いとは決して思わない。むしろ高いとすら思う。
何故なら一年間今のペースを続けると仮定して毎日三回自慰行為するとそれだけで二割も上昇することになるからだ。
毎日自慰行為するだけで、鍛えたり勉強したりするのとは別に身体能力や記憶力に理解力などの基礎スペックが二割上昇するのだから、今この瞬間に実感できずとも続けるモチベーションは十分すぎるくらいに高い。
それに基礎スペックが上がればそれだけ成長の幅も広がるので、毎日運動したり勉強したりする原動力にもなる。所謂相乗効果というやつだ。
それに基礎スペックには容姿や魅力なども含まれていので、シコればシコるほど容姿が整うというのは、前世フツメンだった俺には大変ありがたい。それだけでもシコる価値があるというものだ。
後はシコリ続ければ精力も基礎スペックとして上昇するので、年を重ねるごとに上昇ペースは早まるというわけだから、どう考えても続けない理由がないことが改めてわかった。
こうして俺は生きている限りシコリ続ける必要があるとわかったところで、ちょうどよく懐かしの小学校に着いた。
懐かしいクラスメイト達と適当に交流しつつ小四の授業を受ける。
懐かしくはあるが、一度高校まで行った経験というか記憶のある俺からすれば小四の授業など退屈で仕方なかった。
それでもかなり前に習って忘れていた内容も多々あったので一応真面目に授業内容は聞いていた。
テストは未来知を使えば百点を簡単に取れるだろうが、地頭を鍛えていて悪いことはない。
(もっとも大人の記憶を持つ俺が今更小四の学習内容を真面目に聞いたところで地頭が鍛えられるのかはわからないがな)
そして退屈な学校の授業が終わると、放課後すぐに帰宅して、再び学校に戻ってきた。
理由はバスケットボール少年団に入っていて、今日は小学校の体育館が練習場所だからだ。
俺がバスケットボールを習い始めたのは小三の終わりからで、小四の終わり頃にはチームのベストメンバーに選ばれる選手となっていた。
とは言っても、最上級生は三人で、その下である俺の同級生も少し前に数人辞めていて自分含めて今は二人しかおらず、それに加えて他の下級生はまだバスケを初めて半年も経っていない子ばかりなので当然の人選と言える。
そしてそんな俺の所属する少年団は万年一回戦負けの弱小チームだったため、ベストメンバーだからといって自慢なんて恥ずかしくてできたものでもない。
さて、そんなバスケットボールだが、習っているのは親に半ば強制でやらされているからだったりする。
それでも結局高校まで続けていたのだが、それだって親に続けろと言われていたからで、やはり最後までバスケが好きという気持ちは大してなく、今世ではどうしようか迷い中だ。
俺は北海道の道東に住んでいるのだが、全国大会はおろか全道にも小中高で一回も行ったことがない。
そんなチームで俺は常にエースの立ち位置だったが、弱小チームのエースなんて誇れるものでもないし、モテるわけでもなかった。
スポーツができる運動神経の良いやつは小中でモテるが、それは普段の体育や運動会で活躍するだけでこと足りる。別に習い事を続ける必要などない。
再びバスケをやる前はそんなことを思っていたのだが、実際にバスケをしてみると前世では感じなかった楽しさが確かにあった。
今の俺には前世にはなかった『未来知』というチートがある。それを使ってバスケをしてみれば、面白いように相手をとめたり、逆に抜いたり、簡単にシュートを決めることができた。
流石にまだプレイ中に力を使うのに慣れずに何度かミスって百発百中とはいかなかったが、それは回数をこなせばすぐに修正できる。
前世での高校までの経験に加えて未来知というチートを駆使して突然上手くなったものだから周りはびっくりしていたが、まさか俺が前世の記憶持ちでチート持ちだとは思うまい。
こんなふうに小学生相手にチート使って無双して楽しいのかと問われれば、俺は普通に楽しいと答える。
そもそもこのチートは俺が神様からもらったものなのだから俺の力だ。前世の経験だってそう。いつどうやって使おうが俺の勝手だし、何よりある力を使わないなんて勿体無いだろう。神様相手に有効に使うよう言質ももらっているし、自重する気は今のところかけらもない。
それに前世では万年一回戦負けだったこの弱小チームでも、俺の力を駆使すればそこそこの位置まで勝てる可能性がある。
俺は欲に忠実な人間なので、最終的に勝てるならバスケを続けるのも悪くないと思った。
こうして結局俺はバスケをしばらく続けることを決めた。あわよくばキャーキャー騒がれてモテないとも考えていたのは内緒である。
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