第20話 あなたに人生を捧げます



 私の名前はシラ。

 族長の二人娘の姉。妹はミラという名前。ミラとは仲が良くて、もう15歳にもなるのにいつも一緒に遊んでいた。

 その日も、いつもどおり遊んでいたのだが……。


「ゴラァ!! 人間様だぁ〜!!」


 急に、人間の男のような声がした。

 私は何がなんだかわからなくて体を小さくして、見つからないようにしていた。


 でもこんなことしていても、状況がわからない。そう思った私は、家の窓から様子をうかがった。


「いやぁ〜!!」


 人間の男たちに、同胞たちが攫われていた。

 

 早く助けに行かないと!!

 そうは思ったが私は怖い人間たちに恐れて、ただ襲われていた同胞たちを見ることしかできなかった。


 そして襲われていたのは、ミラも例外じゃなかった。私は見た。外に水を汲みに行ったミラが手足を縛られ、荷台に運ばれていた姿を。


「よぉ〜し! これで全部だな。オメェら!! 今日は好きなだけ金使っていいぞッ!!」


「「うぉおおおお!!!」」


 同胞が全員、いなくなったにもかかわらず私は動くことができずに目から涙を流すことしかできなかった。

  


  *



 そしてそれから、なんやんやあり私は同胞の臭いを辿ってある国にたどり着いた。そして濃くなってきていた臭いをたどると、とある場所にたどり着いた。

 そこは、鉄格子のようなもので囲まれている場所。そして、そこのいるのは見知った顔の同胞たち。なのだが、首に黒い輪っかをつけていた。


 私は、それを見てすべてを察した。あの輪っかのことはお父様によく聞かされていたものだったから。あれをつけられたれたら自由がなくなるのだと。そして、そうなっならみんな奴隷になってしまうのだと。


 私は自分以外、みんな奴隷になってしまったのだと落ち込んでいたのだが、その鉄格子の中をどこを探してもミラの姿が見当たらない。


 そんなとき。

 

「これは……」


 風の流れでミラの臭いがした。

 そしてたどり着いた場所は、どこにでもありそうな質素な宿屋。


「Zzz……」


「ロンベルトしゃまぁ〜……」


 そこにいたのは、私が部屋に侵入したのに気づかないで無防備な姿で寝ている二人の女。


 一人は知らない女。

 そしてもう一人は………。


「ミラ……?」


 頭から茶色い耳を出していて、腰辺りからも同じく茶色い尻尾を出している。臭いと、容姿が全く同じなのでこれは間違いなくミラ。


 その姿を見て、私は考えるのをやめた。

 ミラの幸せそうな寝顔がすべてを物語っている。そう思った私は安心して、部屋を出ていこうとしたのだがあるものに目がいった。


 そこにあったのは、1000万リース。これなら、奴隷になってしまった同胞を助けることができるかもしれない。そう思った私は、気づいたときには右手にお金を持って走り去っていた。



  *



「……と言うわけなんです」


 場所は宿屋。

 俺の1000万リースを盗んだシラ。ミラの姉はなぜ、盗んでしまったのか。そして、今おかれている状況をすべて話した。


 全て聞き終わったけど未だ僕は同じ人間が獣人を奴隷にするなんて、考えられない。


「お姉様ぁ〜! 久しぶりですぅ〜!」


「うわぁ〜ん! ミラぁ〜! 会いたかったよー!」


 ミラは泣きながらシラに抱きついた。

 シラの目にも涙が浮かんでいる。


 うんうん。一度引き裂かれた姉妹の感動的? 的な再会。いいねいいね。


「えっと……どうします?」


 俺はシラとミラのことを見て感心していると、キャシーが問いかけてきた。


「そうだなぁ〜」


 どうしたほうがいいんだろう?

 正直、今の話は俺には一切関係のない話。だけど、ミラの知り合いの獣人が奴隷になったっていうのは無視できないし……。


「ロンベルト様! 大金を盗もうとしていたのですが、恥を忍んでお願いがあります!」


「なに?」


 シラは頭を下げてきた。


「あなた様は、最近噂の史上最速でAランク冒険者にのぼりつめた強者とお見受けします!」


「いやぁ〜強者なんて……ふふふ」


「ロンベルトさん……」


 俺が強者と言われ、舞い上がっているとキャシーに冷たい目で見られた。


 あ、あれ?? なんでそんなゴキブリを見るような目で見るのかな……。まさか、他人にデレデレしていたのが気に食わなかったりして。

 いやまさかそんなねぇ〜。独占欲が強いキャシーならありえるな。


「――んん。まぁその、Aランク冒険者は俺だけどなにかな?」


「あなた様のお力を借りて、今奴隷となってしまっている者たちを救ってもらいたいです!!」


「われからもお願いするのです!!」


 シラとミラは頭を下げて懇願してきた。


 う〜む。こういうのはどうしたらいいんだろうか。

 たしか、俺が見た英雄のお話で見返りがない依頼を受けるとそれを聞いた第三者が俺も俺もといって湧いてくるという失敗談を見た気がする。


 もし、そんなことになったらいやだ。

 俺が理想とするは、完璧な冒険者として語り継がれてほしい。


「見返りはあるのか?」


「……え。見返りですか……」


「うん。俺はこんな感じだけど、さっき君が言った通りAランク冒険者なんだ。なら、依頼として受け取って報酬を貰わないと筋が通らないだろ?」


 俺は、たとえ傲慢だと思われても構わない。


「そうですね、見返り。見返り……」


「お姉様! こういうのはどうでしょう!」


「ごにょごにょ……」


 ミラがなにか思いついたのか、シアの耳元でなにか言っている。そして、それを聞いているシアは少しづつ顔が赤くなっていっている。


 一体何を話しいるのだろうか。


「えっ!? そ、それはあなたがなりたいだけでしょ!!」


「でも、それくらいしか見返りがないでしょ?」 


 ミラの言葉にシアは「ぐぬぬぬ……」と、言い返せなくなっていた。

 本当に何を話してたんだよ。


「ロンベルトさん……どうするんですか?」


「助けることには助けるさ。でも、これは大事なことなんだ」


「そう、なんですか……」


 キャシーは俺の言っていることを疑っているような目で見てきた。


 まさか、見返り欲しさにこんなことしていると思われているのだろうか。それはちょっと流石にひどすぎないかな?


「ロンベルト様。その……」


「ん?」


「報酬はわれと、お姉様の人生です!!」


「それって、冗談じゃないよな?」


「は、はいっ!! 私はまだ、あなた様の事を何も知りませんがミラのことを助けてくださる方は、いい人だと思うので……」


「ロンベルトさん……」


「よし! じゃあ早速、奴隷になってる獣人を助け出してそのついでに、獣人を奴隷にしたバカなやつらを懲らしめますか」

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