第10話 何で、こいつが?

 余りに部屋から聞こえる話に耳を傾けておったので、気付かなかったのだ。


 いや、そうではない。

 足音は聞こえておった。

 しかし、かまわなかったのだ。


 宮女であれ護衛であれ、あるいは王妃や他の王子・王女であれ。誰であれ、私は怒りをあらわにして追い返す気でおった。


 私には、この話を聞き続ける必要があった。

 絶対に。

 母様の話である。


 誰であれ邪魔させる気は無かったし、止める者があれば、許さぬぞと想っておった。その想像もしなかった、今、私の眼前におる者を除いては。


(何で、こいつが?)


 私は再び恥ずかしさに襲われた。しかも先の護衛の時を上回って。なぜなら、その者の存在は、ここ数日の間に、すっかり私の中で重きをなすようになってしまったから。


(東国の一行は去ったと聞いたが。

こいつだけ、残ったのか?)


 その者の切れ長の目は一層細められた。一応とばかりに、先の謁見室にてなしたのと同じ、少しヒザを曲げる礼をなした後に、そのおちょぼ口が開くと、


「ソフィア王女様。どいてくださらない。そこにおられますと、わたくしが中に入れませんわ」


 その声を聞くや、私はとびのき、そこから脱兎の如く走って逃げた。礼も言葉を返さずに。裸足が大理石を打ってペタペタと大きめの音を立てるのも、最早かまわずに。信じられぬほどの羞恥しゅうちに包まれて。


 あれは、さげすみの目でなかったか?

 私は盗み聞きする王女と想われたに違いなかった。




 これより前のこと。


 東国の王が去る際、ソフィアは大玉の真珠を置きみやげとしてもらっておった。


 「手へのブチュウのお礼か」と憎まれ口の一つも叩くも、顔はにんまり。早速、王家直属の金銀細工師に、これを用いて髪飾りを造るよう頼んだ。その際、ヒロミがしておった髪飾りのデザインを、記憶を元に伝えておった。


 おそろいの髪飾りを、という訳である。


 そんなこんなのソフィアの恋心であった。



後書きです。

 お読みいただきありがとうございました。ストックが切れましたので、後はのんびり更新となります。のんびりまったり楽しんでいただければ、と想います。

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爆炎王女と極寒公主と自称雷帝にして鵺(ぬえ)の娘 ひとしずくの鯨 @hitoshizukunokon

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