第9話 自称雷帝と父上の会話2

「そんなに心配そうな顔を、しなさんなよ。あたしがいる限り、あの小娘二人は死なせないわ。絶対にね。何よりあたしにとっては、あの人からの託されごとでもあるしね。

 でもあたしは今でも想うのよ。あたしでも良かったろうって。あの時、あの人はこう言ったわ。

『あなたには人外の戦士たちを育て、また人間と人外との協力をより確かなものにするという、あなたにしかなしえない仕事がある』

 あの人は更に述べ立てたわ。

『それに私もソフィアもサラマンダーの娘。私はソフィアの手助けをすることはできない。ぬえの娘であるあなたなればこそ、託せることなのよ』と。

 あの時は、ついついうなずいたわ」


 ここであいつは、しばし黙った。最前とは異なり、わざとというより、想わずというのが、扉越しにも伝わって来る。


「あの時は、そうかもと想ったし、また熟慮する時も無かった。でも、今では少し疑問ね。

 まあ、人外の件はその通りよ。

 でも、あの小娘のことは、どう?

 確かに『聖獣の娘』の力は、いかにその血を受け継いだことが明らかであっても、先代の力が失われなければ、発現しないわ。

 だから、一見あの人の言い方は正しい。

 でも、そうかしら。

 次の三重月の時にも、あの人自身がサラマンダーの娘として赴けば良かったんじゃないの。それがなにより、あの小娘を守ることになっただろうし・・・・・・。

 まあ、仕方のないこととは想うけど。あの人は一度、言い出したら聞かないし、弁も立つから。御免ね。また、あんたにグチを聞かせちゃったわね」


 あいつ。

 『小娘』って私のこと。ソフィアって呼びなさいよ。

 父上も相変わらず『あんた』呼ばわりされて。一言ぐらい文句言いなさいよ。

 それに『あの人』って、かあ様に違いない。でも、一体、母様の何の話をしているのよ。


 その不審に私の心が包まれたときのこと。

 やはり不審な目をして、私を見ている者に気付いた。

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