第5話 自称雷帝の訪問5

 護衛にしてみれば、乳を半ばあらわにした宮女が、止まっては近づき、止まっては近付くを見せられたのだった。


 そしてここで私は一つの可能性に想い至り、すぐきびすを返し、自室に向かう。


 もし宮女が誘惑して来たら、護衛なら、どうする?


 応ずるにしろ応じないにしろ、どうする?


 何せ、男の方もあんな状態なのである。無論、今すぐここでとはならぬとしても、後で場所をあらためてとは、なりそうなもの。いずれにしろ、応じる気があるなら、声をかけよう。


 そして恋人なり妻なりがおって――あるいは、他に何の理由があれ、応じる気がないならないで――むしろ、良いの種となるとばかりに、やはり声をかけるのではないか。


 なぜ、声をかけずに素通りさせようとしたのか?


 しかも、あの者は、わきにどいて道を開け、横向きの直立の姿勢を取った。


 このことを考えると、最悪の結論に至らざるを得ぬ。


 宮女を通すのに、そんなことをする護衛など、どこにおろうか?


 当然身分が上の者とみなしたゆえである。


 しかもここは王宮。


 更にこの側廊の先は王の居所。


 それでも、とがめもせぬし、問いただしもせぬ。


 それは、そこへの出入りが許されておる者、つまりこちらを王妃か王女のいずれかとみなしたゆえに他ならぬ。


 しかも遠くで私を見た訳ではない。まさに間近に見るを得たのだ。


 私だと気付かれたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る