第6話 自称雷帝の訪問6

 何ということだ。これでは、王女たる私が乳をさらして護衛を誘惑したことになってしまう。私は怒りに包まれて、自室へと大股おおまたに歩き続ける。


 そもそも私の顔を見知っておったのか?王の居所の護衛なら、そうであっても不思議はない。


 あるいは、私の瞳に既にしゅが混じっておったのか?  私は興奮すると、そうなる。父の秘密を探ろうとして、いきり立っておる今なら、そうなっておっても、不思議はなかった。


 そしてこのことは不埒ふらちな噂と共に、城内の者に知れ渡っておった。その噂にては、私を抱いた男は、私が本当に感じているかどうか、すぐにそれで分かると。目が朱に染まれば、そうなのだと。


 だから私をとろかすには、私の目を見ながら、あんなことやこんなことを試みれば良いと。私がいくら感じない風を装っても、無駄で、瞳に朱が混じれば、やがては、耐えきれずに、あえぎ声を漏らし、身をよがらせると。


 私は今回の行いで、更にその噂に真実味を与えることになってしまった。まさに瞳に朱を混じらせ、乳をさらして、つまり己の欲情を抑えられずに、護衛を――しかも王の居所を持場にする護衛を誘惑する王女として。


(くそったれが)


 怒り心頭に発するも、どうしようもない。せめて私の瞳に朱が混じっておらぬこと。そして私の顔を見知っておるゆえに、私だと気付いたことを期待するしかなかった。

 

 そこで私の頭がぜた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る