第4話 自称雷帝の訪問4

 といって、ここまで来て逃げる気はなかった。私は手のひらを広げて前に押しだし、来るなとの意思表示に代えた。

 

 正直、それで護衛が止まるとは想わなかったが、なぜか相手は止まった。ただ止まったままである。元いた位置に、引き返しはしない。 疑いは解いておらぬということだろうか?


 それでも私は、それを幸いとして、耳に神経を集中する。聞こえなかった。


 側廊そくろうを壁沿いに少し前に進む。そして再びピタリと壁に耳を当てる。やはり聞こえなかった。


 更に前へ進む。そして耳を当てる。同じだ。


 更に前へ進む。護衛兵とはかなり近い。鼻息が感じられる気さえするが、ここは我慢する。とにかく現場をおさえることが優先であった。とりあえず他のことは、どうでも良い。

 

 ピタリ、壁に耳を当てる。やはり聞こえぬ。


 護衛兵は私の胸を見つめておった。


 ゴクリ。

 

 護衛の男が生唾なまつばを飲み込むのが聞こえた。

 

 そうすると、護衛は改めて横を向き、壁を背にして直立の姿勢を取った。


 お通りくださいということか?


 どういうことだ?


 これだけ怪しい行いをする宮女を通すなど。私自身がその行いをしておるにもかかわらず、不審の念がわき起こる。


 ゆえに改めてその者を注視すると、一つのことに気付いた。横を向いたので、より気付きやすくなったというのもあろう。その者の股間がしっかりふくらんでおった。


 そこで、あることを想い出す。護衛の視線が私の胸を凝視しておったことを。それはいつものことなので、特に気にも止めなかったのだが。

 

 ただ今の私はドレスではなく、宮女に借りた制服を着ておったのではなかったか。これは胸の谷間は露出しておらなかったはず。それゆえにこそ、乳房をしまうのに苦労したのだった。


 あわてて下を見ると、そこには私の立派な乳房がコンニチハしかけておった。しかもあやうく、そのつぼみをあらわにするほどであった。いつの間にか制服の前ボタンをはじき飛ばしておったのだ。

 

 当然普段なら気付くであろう。しかし私は壁から聞こえて来るだろう声を何とか聞こうと必死であった。しかも目の前には、いつ邪魔立てに入ってもおかしくない護衛がおったのだ。私の乳房の暴れっぷりなどに気付くはずもなかった。

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