第3話 自称雷帝の訪問3

 ということで、私は宮女に制服を借りた。紺色のロングスカートであり、胸の谷間の露出なんかはない。首元までしっかりおおわれていた。


(何で? 私が半乳いつも出しているのに)


 ぼやきつつも、苦労して両の乳房をそれにねじ込む。


 それから、裸足はだしで父の謁見室に向かう。ここの廊下は阿呆の如く音を立てるのだ。もっとも侵入者の接近を知るには、この方が良いので、阿呆呼ばわりは正しくない。ゆえに、これは今の私にとってということだ。


 そして抜き足差し足で近付く。


 (私って、なんて用意周到な女)


 晴れの日ということもあり、外壁のところどころに設けられた窓は、開け放たれており、昼下がりの陽光が入り込んでおった。


 こんなことをなそうとする時は、いっそ窓も閉じられ、ランプのみのあかりの方が望ましいかとも想うが、窓から入るゆるやかな風というものは、やはり心地良ここちよい。




 ところで、こちらの窓からは、私の中庭は見えない。本当は私のものではない。ただ虫に刺されたり、草木に触れてヒフがかぶれたりするのを嫌って、他に誰も出入りしない。それで、もっぱら私の食材探しのための庭と化しておった。


 ただ父上の謁見室や居室の窓からは見える。父上が時折そこからのぞいておるのを知っておった。そのことについて、文句を言ったことはない。


 代わりといっては何だが、珍しい植物を買ってもらうことにしておった。まずは果実がなるものや、野菜の類。他にも色色と。キノコが生えたり、虫を呼んだりするものなどを。



 謁見室の扉の前にはやはり護衛が立っておった。それで、そこからは、私は姿勢をただし、なるべく注意を引かぬよう、歩く。


 ここにまで至ってみると、クツをはいていないのは、かえって怪しまれるのでは?と想えて来た。


(ええい。ままよ)


 とそのまま近付く。いや実際は近付く訳ではない。あくまで、ある程度の距離を保ちつつ、扉ではなく、側廊そくろうの方に向かう。宮女のよくする小走り歩きをまねて。


 謁見室の後方には控え室があり、その更に後方には王の居室がある。これはひとつながりとなっており、王は側廊に出ることなく、行き来できる。


 他方、護衛や宮女は、その片側にもうけられた側廊を行き来する決まりであった。ゆえに私の動きは少なくとも、それほど不自然はない・・・・・・はずだった。ただ一点を除いては。


 幸運なことに呼び止められなかった。間抜けにもクツをはくのを忘れた宮女、と想ってくれたのだろう。


 私は側廊に出た。


 その王の居室への入り口付近、つまり私から見て前方にも、やはり別の護衛がおった。あやしげな者と私の方を見ている気がしてならないが。かまうことなく、そこで立ち止まり、ピタリとばかり壁に耳をつけた。


 さすがに、それを見てであろう。その護衛がこちらに向かって来る。

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