第3章 自称雷帝にして鵺(ぬえ)の娘

第1話 自称雷帝の訪問1

 そして、ほどなくして、あいつが来た。

 城中の笑われ者であった。

 雷帝を自称しておるとして。

 また人外の者、それもそのおのこを愛するとし

て。

 少なくとも後者の件については、私もおぼえがあ

った。


「そんなに怖がらなくてもいいのよ。お嬢ちゃん。あたし

は女の子には興味がないのよ」


 そして恐らく次の言葉は父上に言ったものらしかった。


「あんたも心配しなくていいのよ。あたしの血とこの娘の

血を混ぜることは、禁じられてるの。だから安心をし」


 父上は『あんた』呼ばわりされて怒るどころか、そう告

げられたことにより、明らかにほっとしておった。



 その自称雷帝を、父上はなぜかいつも丁重にもてなし

た。



 かあ様がいる時からそうであったのかは、はっき

りしない。

 私の母様の記憶はおぼろである。

 物心ついたときには、既に母様はおらなかった。




 そして子供時分は、いつも呼び出された。

 そして私を見定める如くに見た後に、決まってこう憎ま

れ口を叩くのであった。


「おムネばかり随分と大きくなって」


 私はその度に怒りをあらわにして、ねめつけたのだけれ

ど。

 あいつは恐れなかった。

 私が炎の魔道を使えることは、父から聞いておったろう

が。

 むしろ、やれるものならやってみなさいという感じであ

った。

 しかし私もついに魔道を用いることはなかった。

 その挑発に乗りたくなかったからだろうか。

 あるいはその当時は雷帝との自称をまともに受け取って

いたからだろうか。

 あるいは父より、この者が母の友人、それどころか母に

とって大事な人とも盟友とも言い得る人との言葉を聞かさ

れていたからだろうか。

 なにぶん、昔のことだから、よく分からない。

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