第25話「女の子している子」
「あの…新歓合宿のあれ…やっぱりあきらくんも引いちゃいましたか?」
予想外の問いかけが飛んできて、僕の綻んだ顔も元に戻る。
やはり、蓬川さんは気にしていたのだ。自分の見られたくない一面を晒してしまったのだから仕方ない。
しかし、どう返すべきなのか。
「あれ?あ、あぁ、あれは仙田が悪いんだよ、うん」
とりあえず、僕は論点をずらして適当に取り繕うことにした。
「あきらくんは私のことをどう見えたのかを訊いているんです」
僕の雑な返しに彼女は顔を上げず冷淡さを感じさせる声色で詰めてきた。
蓬川さんは真面目に訊いているのだ。
僕は少し考えてから答えた。
「ごめん。確かにびっくりしたけど、逆に安心したよ」
「安心した?」
意外な答えに蓬川さんはつい僕の方を見る。
僕は続けて言う。
「うん、蓬川さんって、つかみどころがないっていうか何考えているか分からなくて、話す度に少し不安だったんだ。でも、あのときに蓬川さんの内心を垣間見えた気がして嬉しかった。周りが知らない蓬川さんの顔を僕たちだけが知っているっていう優越感もあるのかな」
僕が言ったことは嘘ではない。
蓬川さんは甘え上手で、僕を頼ってくれて、そして認めてくれた。
今まで女子から褒めてもらえたことなんてなかった僕にとって蓬川さんは天使だった。
しかし、そんな蓬川さんの内面が分からずモヤモヤしていた僕もいた。
そして、図らずとも彼女の裏の顔を知ることができた。
それはあまりにも衝撃的なギャップであったが、二年以上も続いた感情が冷めることもなく、むしろ誰にも見せない内面に触れたことで、数多いる蓬川さん好き男子達とは一線を画した気がした。
だが、甲斐性があるとは言えない陰キャの僕が一癖も二癖もある彼女のよりどころになれる自信がなかった。
僕には、蓬川さんとの恋愛成就なんて不可能なのだ。
「…なるほど」
蓬川さんは真剣な顔で考え込んでいるようだ。思考が読めなくて不安になる。
「ご、ごめん、我に返ると気持ち悪いこと言ってるよね」
僕は不味いことを言ったが気がして謝った。
蓬川さんからすぐに返事が戻ってこない。
気まずさを感じる沈黙の時間が流れる。
これで会話が終わったのかと思い、それなら取り繕うべく相応しい話題はないか思案した。
すると、蓬川さんは本を閉じて僕の方を向いた。
「こんな私も…あきらくんから見たら、女の子に見えますか?」
「え…蓬川さん?」
いつもならこういうフレーズを言う際に合わせて可愛い仕草で魅了するはずの蓬川さんが、そういった動作を全くしないで真剣さが窺がえる様子で聞き覚えのある質問を投げてきた。
蓬川さんと話したら大体は赤面する僕の顔も、彼女の真剣さが伝播し、突拍子もないことを訊かれて驚きを隠せない表情は見せたものの、赤らめることはなかった。
回答なんて決まっている。
「女の子している子」とは蓬川さんをイメージして言った言葉だ。
そういえば天城さんにも訊かれたっけ。
あのときの天城さん、可愛かったな。
いや、そんなことを考えてる場合ではない。
早く言ってあげた方が良い。
僕が口を開けて言葉を発しようとしたとき
「あっきー!!お待たせー! 行こ―!」
第三者が部室のドアを勢いよく開ける。
天城さんだ。その様子から映画を楽しみにしているのだと分かる。
「あ、天城さん」
僕は蓬川さんに言おうとした言葉を飲み込んだ。
「お二人でこれからどこかお出かけですか?」
蓬川さんの方から話を区切って僕たちを見て言う。
「ま、まあちょっとね」
僕は詳しくは言わず濁すことにした。
前まで好意を向けていた蓬川さんに映画デートに行くなんて言えない。
「そうですか、ぜひ楽しんできてくださいね」
蓬川さんは先程の真剣な顔から一変して、いつもの癒される笑顔を見せた。
その笑顔でより一層彼女への罪悪感が沸いてきた。
僕は一刻も早くこの部室を出ようと蓬川さんに別れの挨拶をすると天城さんを連れて部室を後にするのだった。
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