第24話「天城さんとのデートの約束」

 仙田が去り、蓬川さんが部室に入ってくる。


「あきらくん、おつかれさまです」


 蓬川さんは柔らかい表情に戻り、ソファに腰掛ける。


「お、おつかれさま。蓬川さんも授業終わったの?」


 僕は先程の掛け合いに動揺しながらも無難に訊いた。


「はい、今日はもう終わりです。バイトの時間まで読書でもしようかと」


 僕が適当に相槌を打つと、蓬川さんは鞄から本を取り出し、口を噤んでしまった。


 気まずく感じたが、僕はLINEを放置していたことを思い出したので、返事をすることにした。



阿合あきら:先輩はいつ空いてますか?

天城優奈 :今日行こうよ!ちょうど授業終わったんだ、今から行かない?

阿合あきら:なんというフッ軽…。では部室で待ってるんで合流しましょう

天城優奈 :はいよー、今から行くね



 今日行く流れで話が進むと、僕は勇気を出して次のメッセージを送信した。



阿合あきら:二人で行きたいのですが、大丈夫ですか?



 二人という文字が気恥ずかしく感じたが、勢いに任せることにした。


 敢えて最初に二人で行くことは伝えなかった。


 約束さえしてしまえば、たとえ二人で行くことに抵抗があっても断られにくいと考えたのだ。


 しかし、もし「え、誰か来るのかと思っていた。二人はちょっと無理かな」とでも返ってきたら僕の硝子のハートは容易く粉砕されるだろう。


 お断りの可能性を考えてしまい、負の感情がこみあげてきた。


 送ったメッセージに既読がつく。心臓の鼓動が早まる。


 シュポンと通知音が鳴る。



天城優奈 :二人で行くと思ってた! 良いよーん!



「やったっ…!」


 嬉しさのあまり、独りごちてしまった。


 恥ずかしくなり蓬川さんを見たが、僕の呟きなど気にしていないようで読書に夢中だ。


 僕は今、人生で一番嬉しいかもしれない。


 二人でデート。僕から誘って女の子からOKを貰えた。


 僕は自分の存在を認めてもらえた心地がした。


 トキメキ、という言葉は僕には似合わないかもしれないが凄くトキメいている。


 つい口角が緩む。まずい、蓬川さんもいるのだから平常心にならなければ。


「あの…」


 蓬川さんはボソッと呟いた。


「え、あっ、は、はい?」


 僕のにやけ面を見られたのかと思い、取り乱してしまう。


 蓬川さんは本に目を落としたまま続けて言う。


「あの…新歓合宿のあれ…やっぱりあきらくんも引いちゃいましたか?」


 予想外の問いかけが飛んできて、僕の綻んだ顔も元に戻った。

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