タイムマシーン

 私は、アニメが大好き。

 だから未来ってものは明るく、楽しく存在していているものだと思ってた。

 もしかしたら、「どらえもん」がきてくれるんじゃないかって期待したりもした。

 けど、現実はまったく違った。

 私が予想した十歳の誕生日は夢いっぱいだったけど、現実は年齢と身体が成長しているだけで、車が空を飛ぶことがなければ、さらに言うと「どらえもん」もいない。

 気分は最悪。

 今の私よりもうんと小さいころ――私は十歳になれば、のび太みたいに「どらえもん」がきてくれるんじゃないかと無邪気に信じていた。

 そして、悲しいことに十歳の誕生日を迎えたけど、そんな非現実的な起こらなかった。

 現実では私は自分の部屋に一人ぼっちで机に向かっている。

 前のテストで赤点をとったから。

 最悪。

 ぎしぃ、ぎしぃと軋んだ音がして、私は、んっと目を瞬かせた。

 私はぎょっとした。

 僅かな引き出しの隙間から人の指が出ている

「げぇ」

 私は、慌てて身をひくと引き出しが全開になる。

 そして手から腕が生えて、人間の上半身が飛び出してきた。

「呼ばれて、飛び出てじーじゃーん……あれ? 反応薄いな」

 ノートや鉛筆やらと一緒に男の人が引きだしから出てきた。めがねをつけた黒髪の男性。どうみてもドラえもんではない。

 あと、私は別に反応が薄いのではなくて、驚きのあまり開いた口がふさがらないのだ。

 人間、本当に驚くと悲鳴もあげなければ、腰も抜かさずに立ち尽くすのだと、いま、知った。

「もう少し反応ほしいな」

 ニコニコと笑いながら引き出しから上半身だけ出した男性は、よっこいしょといいながら全身を出してきた。ちなみに土足だ。

 やめてよね、土で床がよごれちゃう。

 といいたいけど、私は注意もできなかった。

「散らかしちゃったね、ごめん、ごめん」

 そういって男は床に散らばったノートなどを拾い上げていく。

「あの、どちら様ですか」

 自分で聞いていても間抜けだと思うけど。

「ひどいな! 俺の名前を忘れてるなんて! ……ああ、そうか、君は君であってそうじゃないのか」

「は?」

 なにをいってるんだろう。この人

「まぁいいや。じゃあ、行こうか」

「へっ?」

 引き出しから出てきた男性が私の手をとる。

「ど、どこにいくの?」

「誕生日のお祝い」

「へっ」

 私は、またしても変な声をあげていた。それに引き出しから出てきた男性は、くすりと笑って私の頭を撫でた。

「今日は、君の誕生日だろう?」

 私は頷いた。

 なんでこの人は知ってるんだろう。

 私の誕生日。

 みんな忘れてしまったのに。

 そう、最悪な誕生日。

 テストで赤点をとった罰として部屋で勉強させられている間抜けな私。

 誕生日。たぶん、私以外は覚えてない。この日、このとき、私は生まれたとしても私以外にはなんの関係もない日。

「さぁいこうか」

「ちょっと、まってよ。どこにいくのよ」

「だから、デート」

「はぁ?」

「誕生日なんだし」

「あなた、何者? 引き出しから出てきて」

「君が好きな言葉でいうところの未来人だよ」

 私はじっと男性を見ていた。

「あなた、どらえもん?」

「ううん。人間。ああいうロボットははまだないんだ。ちなみにどらえもんの持つ道具なんかも未来はないから。現実的にいこうね」

「けど、あなた、引き出しから出てきた」

「十歳の誕生日、どらえもんがきてくれるって信じていただろう?」

 夢をずばりと言い当てられて驚いた。だって、それ、誰にも言ったことないのに、どうしてこの人は知ってるの?

「けど、テストで赤点をとって、最悪の誕生日……違う?」

 こっくりと、頷いた。

 この人は、私のことを知っている。

「さて、いこうか」

「デートに?」

「そうだよ。今日が終わっちゃったら、困るんだろう? ほら、もう、十二時だから、お昼食べて、それから君の行きたいところにいこう」

「パパやママに見つかるわよ」

「大丈夫。窓からいけば」

 にっこりと笑って指差した先にある窓に私はまたしても声をあげることができなかった。

 私の部屋は二階だ。その窓から逃げようなんて馬鹿かもしれない。この未来の人。

 男性がけらけらと笑う。

「仕方ないだろう。空を飛べる道具なんてないわけだし。大丈夫、木をつたって逃げればいいんだよ。昇ったことあるけど、折れなかったから」

「どうして、あなた、うちの庭の木にのぼったことあるの?」

 私の視線に未来の人が、少し顔を強ばらせた。

「いや、まぁ未来、ちょっとそういうことがあるんだよ」

「どういうことよ」

 窓を開けながら未来の人が笑う。

「さぁ行こうか」

 誤魔化そうとしている。私は拳を握り締めて、じっと未来の人を見た。

「教えてくれなきゃ、行かない」

「我が侭いわない。このまま部屋にいても楽しくないだろう?」

「教えてよ」

 私が睨むと未来の人は肩を竦めて笑った。

「俺の未来の奥さんは、本当に強情だね」

 この人、いま、なんていった。

「未来の奥さん? 私が、あなたの?」

「そう、奥さん。俺は君の未来の旦那さん。これでいい?」

 彼が私の手をとって窓へと足をかける。

「二人だとちょっと難しいな。俺が先に降りるから、君はあとで降りてくれ。大丈夫、落ちても俺がキャッチするから」

 そういって自分一人だけ慣れたように窓から木をつたって降りていくのをじっと見つめた。

 私、この人と夫婦になるの?

「降りてきて」

 下から声がするのに目を向けると、彼がいた。

 こんな高いところから降りられるのだろうか。いや、実際、彼は出来たけれど、私は女の子で、今日でようやく十歳になるわけで、大人とは違うわけで……ちゃんと降りられるか心配だ。

 けど、下にいる彼は、私がもし落ちたとしたらちゃんとキャッチしてくれるといっていた。

 よし、彼を信じて私は枝に手を伸ばして、一歩、踏み出して見枝へと飛び移ろうとしたけれども、距離があきすぎていて、そのまま下へと落ちた。

「きゃぁ」

 目を閉じて痛みに構える……けど、ぜんぜん痛みがこない。なんだかあたたかい?

 そっと目を開けると彼がいた。

 ちゃんとキャッチしてくれたのだ。

「約束、守ったろう?」

 私は怖さになにもいえずに、うんうんと頷いた。

「よし、行こうか?」

「靴!」

「よし、まずは靴を買おうか」

 私は頷いた。


 彼に抱きかかえられたままに靴屋に行くと、私はそこでシューズを買った。

「なんで、普通の靴なの? もっといいのかってあげるよ」

「靴なんて、普通でいいの」

 私は靴の履き心地を確かめるようにとんとんと爪先を打った。

「こういうのは、普段はきなれているようなものじゃないとね」

 よし。なかなか。

 私は履き心地に満足しするとお金を払って、彼と店を出た。

「まずディナーとしゃれ込んで、あと遊園地でも、動物園でもなんでもいいよ」

「ごはんは、ファミレスでいいや」

「えっ! なんで」

 私は少し悩んだように首を曲げ見せる。

「だって、誕生日に未来の旦那様がくるってありなの?」

 私の言葉に彼――未来の旦那様は困った顔をした。

「なんか、頭がごちゃごちゃしてきたから、ファミレスでいいの。だって、未来ではそれって私のお金でしょ? けど、ケーキ食べたい」

「なんか現実的なこというね。うちの奥さんは」

 そういって未来の旦那様は、私の横に立つ。

 私はこの際、彼をよく見ておく事にした。すらっとした背に黒髪。なかなかの顔立ち。私は、未来で、そこそこの旦那様を得られるようだ。

「はい、じゃあ、手をとって」

「へ」

「夫婦なんだし」

「まだ、違うでしょ」

「いいから、いいから」

 そういって手をとって歩き出す。

 変な感じ。

 この人は未来の旦那様なわけだから、ちっとも変ではないのかな。いや、けど、私は、まだ結婚してないから。やっぱり変なんじゃないのかな?

「ねえ未来、どんなの」

「内緒。未来のことは、最低限しか教えれません……んー、ここら辺でファミレスってどこにあるの?」

「右に曲がると……ねぇ、ちょっとだけ、いいじゃん」

 彼は困った顔をして笑った。

「んーとね、白い家をもって、大きな犬がいるの。あ、もちろん、庭があってね。それで、車もある。仕事はまぁまぁの収入だし、息子がいて」

「素敵!」

「素敵な家だろう」

「うん。けどさ、どうして、ここにきたの」

「え」

 彼は驚いた顔をした。

「どうしてここにきたの?」

 再度の質問に彼が困った顔をして、ぽりぽりと頬をかるく指でかく。

「結婚記念日」

「はぁ?」

「結婚記念日だよ。仕事で忘れてたの、それで家を追い出されたの」

 笑っていう彼に私は吹きだした。

「馬鹿?」

 結婚記念日を忘れるなんて、馬鹿だと思う。

 二人が結婚した、特別な日を忘れるなんて!

「仕方ないだろう。忘れていたの。だから、これは結婚記念日の償い。あ、未来でこのこと思い出して、許してくれると嬉しいな」

「まぁ、許してあげるか、どうかは今日の一日次第だ」

「厳しいな。うちの奥様は……けど、ここまできたのだって、褒めてほしいな」

「なんで」

「タイムマシーンって、この世には存在しないんだよ」

 その言葉に私は足をとめた。

「タイムマシーン、ないの?」

「そうだよ」

「じゃあ、あなたは、どうやってきたの?」

 私の問いに彼はにっこりと笑った。

「俺が発明したタイムマシーンで」

 いま、この人、なんかすごいこと言わなかった?

「あははは、なに、ぶっさいくな顔で、硬直しちゃってるの?」

 彼の言うぶっさいくな顔というのは、眉間に深く皺をよせて、彼を凝視していることを今の顔のことを言っているらしい。

 だって、未来からきた旦那様は、タイムマシーンを発明したなんて!

 うちの旦那様って、すごい人なんだ。


 私達は、近くのファミレスにはいった。

私はオムライス。彼はトンカツ定食。

 せっかくのデートだけどもムードなんてないメニュー。けれど、いいのだ。なんといっても、彼は注文する際に店にあるケーキ、全種類をもってきてというすごいことをしてくれたのだから。

 もし、私がお金持ちになったら、一度はしてみたい注文だった。

「そんな驚かなくても」

「驚いてるの。いろんなことに」

「なにに」

 私はおしぼりで手を拭いていく。

「あなたがタイムマシーンを作ったことと、それから、ケーキ全種類」

「だって、じゃないと君に会えないだろう? あと、ケーキってここ、十五種類しかないから、たいしたことないよ」

「たいしたことよ!」

 私が噛み付いた。

「タイムマシーンは、すごい発明だし。ケーキ十五種類は嬉しいけど、食べきれなかったら困るし、お金すごいし」

 なんだか混乱してきた。

「ケーキ十五種類って、一つ二百円ちょっとだから、たいしたことないよ」

 そういってメニューを見て彼が笑う。

「絶対に高いよ」

「誕生日、誕生日」

 そうだ、今日は誕生日なんだ。ちょっとぐらい我侭いってもいい、お祝いの日。だから、ケーキを十五種類注文してもいいわけだ。

 私は、自分を納得させることにした。

 オムライスとトンカツ定食を食べたあと、十五種類のケーキがどばっとテーブルにやってきた。

私はまずチョコレートケーキから食べてはじめた、次にチーズケーキに手を伸ばした。甘いものだったらいくらでも食べられそう。

「う、あまい」

「甘いの嫌いなの?」

 私は食べながら尋ねた。既に五個目。生クリームのケーキに突入中。

 しかし、彼は青白い顔をして二個目の抹茶ケーキを食べている最中だ。

「ん、まぁ、適度に食べられる程度なんだよ」

 実は苦手みたいだけども。

 さすがに十五個もケーキがあると、一個くらい残すかなと思ったけども、がんばって食べきった。

なのに彼は五個しか食べられなかった。やっぱり苦手だったんだね。

 店を出ても彼は辛そうに口を手で覆って私の後ろをあるいていく。

「うー、甘い……さて、次はどこいく? 遊園地? 動物園?」

「そうね、結婚記念日忘れたわけだし……そうだ! 海いこう!」

 私の言葉に彼は眉をひそめた。

「なんで海?」

「私、恋人といってみたいの。海ってロマンチックじゃない?」

「夫婦だろう? それって、変だよ」

「だって、夫婦って……そうか。変だよね。夫婦ってことは、既に海はいったんだよね」

 私の言葉に彼は困ったように首を横に振った。

「いや、いかなかったよ」

「海に?」

「汚染がひどいからね。……よし、じゃあ、行くこうか。ここから海が近いんだよね? いつも聞いてたよ。きれいな海が」

 私の手をとって彼が歩き出す

「俺、免許もってるから、車をレンタルしようか」

「レンタルできるかな。未来の人の免許書で」

 私は現実主義者になる。

「できる、できる。……できなかったら、いっそ、盗む?」

「はんざーい」

 私が顔をしかめたのに彼が肩を竦めた。

「いまさらだよ」

「なにが?」

「なんでもなーい。……まぁ盗むのは冗談としても、レンタルしないと、足がないしなぁ」

 ぼりぼりと頭をかく彼に私はちょっと考えた。

 ここからだったら、海は近い。

 街のちょっとした自慢は、海がきれいなこと。恋人ができたら絶対に海を観に行くと決めていた。

 道の端っこに自転車がとめられているのを見つけた。

 最近、おきっぱなしの自転車が多いんだ。

「自転車」

「へ?」

「自転車、盗もう」

「……なんだ、結局盗むのかよ」

「車よりはいいじゃない?」

「まぁね」

 そんなわけで、私は自分の誕生日だというのに犯罪をおこなった。

 自転車を盗んだのだ。それも相方は未来の旦那様。

 彼は簡単にロックを解除すると自分がのって、その後ろに私を座らせた。

「よし、いくか」

「うん」

 私の夢の一つ。

恋人が漕ぐ自転車の後ろに乗ること。

 平凡。けど、嬉しい。

 私の夢がどんどん叶ってゆく。

 自転車は風をきって走っていく。

 背中に耳をあてる、どっくん、どっくんと聴こえてくる心臓の音。彼の匂い。これが私の旦那様。

「おー、海がみえてきたー」

「本当だ」

 私が顔をあげると、きらきらと光を反射した海がみえてきた。

「よし、砂浜で軽く走るか?」

「なんで」

「ほら、つかまえてごらんなさいってあるじゃん」

「やだ、そんなの」

 私がいうのに彼が照れたように笑った。

「いいじゃん。恋人同士の鉄則」

「もう、夫婦でしょ」

 恥かしくて強い口調で言い返した。

「……違うよ」

 え?

 私が問いかけようとしたけど、ちょうど自転車を置き場にきてしまった。彼は自転車から降りた。私も一緒に降りる。こうすると、身長差がとってもある。

「俺と君は夫婦じゃない」

「なに、それ」

「けど、俺は君が好きだった。とっても大好きだった」

 彼が真っ直ぐに見つめて、私はなにか言い返すべきだとおもいながらなにも言えなかった。

 海の満ち引きの音が耳につくなか、彼は無言で私の手をとって海へと歩き出す。

 どうして、彼は夫婦だといいながら、違うというのだろう。

 潮の香り。

さらさらとした砂を軽く蹴る。

「タイムマシーンが、どうして作られないか知ってる?」

「なんで?」

「過去はなにがあっても変えてはならない。……本当はさ、タイムマシーンは、作ろうと思えば作られるんだ。けど、そうすると、みんなが自分の過去を変えようとして、タイムトラベルが……ああ、つまりは、ゆがみができるからだめなんだ。それに未来からきたものは、それほど長く過去にいることはできないんだ。そのゆがみのせいで、すぐに元の時代にかえることになる」

 彼は砂浜の上に足跡をつけて歩いていく。

「けど、会いたかった」

「誰に」

「君に」

 足をとめて、ふりかえる。

 私はじっと彼をみていた。

 十年、生きていた中で、こんなにも真剣に見つめられたことはない。

 胸がどきどきしている。

「だから、法を犯した。君に会いに来た……過去にどれくらいいれれるか、わからなかったけど」

「夫婦じゃないの?」

「正確にはね。君は別の人の奥さん。俺は、だめだとわかっていても君が大好きになった」

 ぎゅっと手が強く握り締められる。汗ばんだ手の温もりを私は感じていた。

「君がいなければ、世界なんてなくなってしまえばいいと思った」

「だめよ」

 強い風がふく。

「世界は、私やあなたのものじゃないわ。この世界のものよ。壊しちゃだめ」

「……同じこというなぁ、まいたぁ」

 私の手を離して、その場にうすぐまる彼に私はなんいとえばいいのか困ってしまった。

「未来の君も、そういった。君がいなきゃ、いやだっていう俺に、君は笑いながら……本当にやんなるなぁ」

 ぼりぼりと頭をかく彼に私は笑った。

「どうして、ここにきたの?」

「君に会いに……もう一度でいいから、会いたかったんだ」

「未来でいくらでも会えるじゃない」

「……君は死んだんだよ」

 彼の言葉に私は目を見張る。

 死ぬ。

 私は死ぬんだ。

 今日は、最悪の誕生日。誰も私の誕生日を覚えてなくて、テストで赤点をとった罰を受けて、ふてくされていた私の前に未来から旦那様がきて、そして今は、死ぬといわれてしまった。

「だから、世界を壊してしまえばいいと思ったよ。俺はね、頭のいい科学者だから、ボタン一つで世界を壊せるんだ」

「だめよ」

「わかってるよ、君も同じことをいった。だから、会いに来たんだ」

「タイムマシーンで」

「そう、犯罪だけどね。会いたかったから」

 彼はゆっくりと顔をあげた。なんだか泣いているみたい。

「君にもう一度会う為にきたんだ。過去だからね、ちょっとだけ嘘をついてみた。旦那様ってね、大好きな君と夫婦だったらって思って……君は、この日のことをよく俺に教えてくれていた。最悪な日だったってね。だから、俺から君にプレゼントしたかったんだ、最高の誕生日を……君が願っていたどらえもんは無理だけど」

 だから引き出しからじゃーじゃーんなわけか。

「どうして」

「君にあげられるものって、これしか思いつかなかった」

 彼はそういって立ち上がった。

 潮のきつい香りが風にのってくる。

「もう、もどらないと」

「犯罪者になるの」

「そうだね。そうなるけど、後悔はないよ、君に会えたし、なんにしても、過去はかえちゃいけないんだよ」

 彼はこれからどうなるんだろう。犯罪者ということは、やはり捕まるのだろうか。私は、彼を助けてあげることなんて、できない。

「……ねぇ」

「なに」

「未来で私、あなたに会うから」

 彼が笑った気がした。

「会いたいよ、君に、待ってるよ。未来で」

 強く抱きしめられて、私はやはりどきどきした。

「待ってる。君がもし、俺を残して死んだとしても、やっぱり会いたい」

「うん」

 ぽんぽんと軽く背を叩く。

「待ってる」

 もう一度、そういって彼は私を離した。

 彼は笑っていた。

 肉体が透けていくのを私は、じっと見つめていた。

「もう時間だ。肉体が元の時代にもどろうとしてる」

何も言えない私を彼は強く抱きしめて頬にキスをして、にやりと笑った。

 私が口を開いたとき、彼の姿は完全に消えてしまった。


 その日は最悪の誕生日で、誰も誕生日は覚えてなくて、テストでは赤点をとって、部屋で一人で勉強をさせられていた。

 もしかしたら、引き出しから未来のロボットがきやしないかと私は待っていた。

 けど、かわりにきたのは、未来で私を待っててくれている人だった。

 私は、その人に未来であわなくちゃいけない。

 そう、大好きって気持ちをお礼にあげにいかなくちゃ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る