ねじれた学校

 僕たちはいつもの時間、遊ぶふりをして広場に集まる。

 広場に来るのはネットで集めた同志のみかちゃん、けんたくん、さゆりちゃん、ごとうくん……もっと仲間を増やしたいけど、あんまり急いで集めるのは危ないからまだまだ仲間は少ない。ネットの二十歳未満を対象とした会員型の隠しサイト「学び舎」では日本、ううん、世界の各地にいる勉強したい子どもたちが、どうやったら自分たちの生まれる前に存在した学ぶことが出来る学校が作れるのかを話し合っている。

 僕たちが生まれる数十年くらい前だ。ある病が起きた。成人病といまは言われている。二十歳になると発病して、例外なく「学ぶ」ことができなくなる。文字通り、勉強が出来ない。歴史を覚えたり、社会の制度を作ったりとか。それで大人たちは困ってしまった。今までしていたことがまるで出来ないんだから! けど、一人の大人がいいことを思いついた。だったら遊んで暮らせばいい。その病が流行り始めた時代には既に労働ロボットが作られていたから働かなくても困ることはなかったんだ。それでそのときの政治家たちは「大人は遊ぶべし、勉強なんてものはなくしてしまおう。僕たちは自由だ」と宣言した。それは世界遊び宣言とされて、それから大人になれば遊んで暮らしている。毎日、遊園地、水族館、散歩にピクニック、海に泳ぎに行ったり、山へハイキングにだって! それで大人たちはすごく満たされているから子どもである僕たちにも当然「遊ぶべし」と教える。遊ぶのは楽しいよ、けれどそれだと物足りなさを感じてしまうこともある。

 成人病が起こったときに子どもであった人たちが今後生まれてくる子どもたちのために勉強道具を残しておいてくれたんだ。それは壊れた学校の建物の底にこっそりと隠されていて、二十歳になる前に勉強したいと思う子どもに場所を教えるんだ。それをずっと繰り返して僕の世代まで勉強は残されてきた。

 そうして僕たち子どもは細々とだけども勉強をしてきたんだ。けど、教科書とか古いし、どんどん汚くなっていくから勉強するのも大変だ。最近はネットもあるけど……いつ規制されるかってはらはらしている。

 今、大人たちは遊んで暮らしてるからロボットたちにすべて任せてるんだ。法律もロボットが決めている。子どもたちが勉強しないようにって、それを破ると警察ロボットに捕まえられちゃうんだ。前に僕の友達のたかしくんも捕まっちゃった。捕まった子どもは一週間くらいで帰ってくる。けど帰ってきたときはまるで別人で、将来はお医者さんになりたいって言ってたたかしくんはもう遊ぶことしか考えない。きっと連れていかれたあと洗脳されたんだと僕は思っている。

 考えれば、ロボットが人間の代わりに労働を開始してから成人病は生まれたんだ。ちょっと想像を働かせてみた。もしも、僕たちの社会を侵略したいと思ったら、はじめは労働とか小さなことで生活に溶け込んで、侵略相手が油断している間にこっそりといろんなことができないようにさせるんだ。今、大人たちが遊ぶしかできなくなってるみたいにさ! 

 それで政府とか生産とかいろいろと自分たちがかわりにやってあっという間に立場逆転。支配しちゃうんだ。なんてね、ロボットが自我をもって人間を侵略するなんて……

 ぼんやりとサッカーボールを抱きしめて待っていると、みかちゃんたちがきた。学校、それを作りたいし、通いたい。僕がだめでも、僕の次の世代の子どもたちが……あ、警察ロボット、どうして! みかちゃんが薄笑いを浮かべて近づいてくる。

「ごめんね、私、遊ぶのが好きなの。学ぶのなんてやめましょうよ」

 みかちゃん……

 僕は絶望したままみかちゃんを見つめた。将来女優になるって言ってて、難しい漢字を読みたいって君は偽物なのか? 違う、みかちゃんの首筋にたかしくんにあった赤い斑点……みかちゃんまで!

 僕は震えながらボールをロボットにぶつけて走り出した。

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