45話・ラシオス対ローガン 9

 ローガンは一瞬判断に迷った。

 上に振り上げた木剣を打ち付ければ確実に勝てるが、急に距離を詰められて間合いが狂った。その上、ラシオスが地面に引きずっていた木剣を振り抜いた。瞬時に軸足を引いて身体を回転させ、紙一重で避けるが、予想より剣先が伸びている。

 短くガード下部分を持っていたはずのラシオスの手はいつのまにか柄頭ポメル辺りを握り込み、剣先の到達範囲リーチを僅かに拡げている。これまで両手で構えていた木剣を片手持ちに変えたのだ。


「くっ」


 咄嗟に身体を曲げて直撃は避けたが、ローガンは体勢を崩してしまう。その隙を突き、ラシオスが更に攻撃を仕掛けた。空振りとなった剣を瞬時に持ち替え、ローガンの利き手をガントレットの上から打ち据えたのである。


 カラン、と乾いた音が闘技場内に響く。


 ローガンは地面に落ちた木剣と痛みで痺れる自分の手を交互に見て、最後に目の前に立つラシオスに目を向けた。立っているのもやっとの、汗と土埃にまみれた男の姿がそこにはあった。


 はは、と小さく笑ってから、ローガンは「参った」と両手をあげて負けを認めた。


「勝負あり!勝者、ラシオス王子!!」


 審判代わりのグナトゥスが大きな声で宣言すると、観覧席から割れんばかりの歓声と拍手が贈られ、二人の王子の健闘を讃えた。


「弱ったふりで力を温存していたか」

「いえ、僕はとうに限界でした」


 決闘が終わり、今度こそ本当に力尽きて座り込んだラシオスにローガンが肩を貸した。笑顔で観客席に手を振りながら、周りに聴こえないように言葉を交わす。


「その割には動けていたようだが?」

「必死だったのです。彼女を奪われてしまったら僕は生きてはいられませんから」


 静かな中に燃え盛るような愛情の片鱗を垣間見て、ローガンは呆れたように肩をすくめた。


「だったら最初からそう伝えろ」


 ローガンが指差すほうをラシオスが見ると、フィーリアが駆け寄ってくるところだった。

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