39話・大公妃の目的

 ラシオスとローガンが白熱した戦いを繰り広げている中、モント公国に割り当てられた貴賓席では緊迫した空気が流れていた。


 大公妃メラリアは寝椅子カウチから身体を起こし、フィーリアの前に立った。身体のラインに添った妖艶なドレスを見に纏ったメラリアが眼前の令嬢を見下ろす。


「よく調べたこと。でも、それがなぁに?」

「……」

「真実を突き付ければ謝るとでも思ったの?このあたくしが?」


 大きくはないが威圧的な声だ。他人に命令することに慣れ切った態度と口調。フィーリアはメラリアの圧に潰されないようにするだけで精一杯。傍に控えているカラバスたちも必死に耐えている。


「過去の出来事は済んだこと。今更わたくしが口を挟むことではありません」

「……よく分かってるじゃないの」


 ならば何故、とメラリアは思った。


「ですが、いま闘技場で何かしようとするならば、わたくしは大叔母様を止めねばなりません。特にラシオス様やローガン様への手出しは許されないことです」

「大袈裟な子ね。大したことはしてないじゃないの」


 メラリアは扇で口元を覆ってコロコロと笑う。その反応を見て、フィーリアは更に続けた。


「先ほどクロスボウを放つために侵入した貴賓席。あれは三ヶ所とも我がブリムンド王国の貴族の席でした。そこから放たれた矢がローガン様に命中していたら」


 そこまで聞いて、カラバスが顔色を青くした。


「ブリムンド王国がアイデルベルド王国次期国王に危害を加えたことになる……!?」

「その通りです。もしそのような事態になれば、二国間の友好関係に亀裂が入ることは避けられません」


 メラリアはフィーリアに婚約者を選ばせるためと見せ掛けて、両国の関係悪化を狙っていたのだ。


「まさか、大公妃様はそこまで考えて……」


 驚愕の表情を浮かべ、ヴァインはメラリアを見た。恐ろしい話だが、これは単なる仮説に過ぎない。


「フフッ、賢いのも困りものねぇ」

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