38話・ラシオス対ローガン 6

 ラシオスの首元にローガンの剣先が突き付けられ、観覧席がどよめいた。自国の王子の危機に、ブリムンド王国の国民が悲鳴を上げる。

 通常ならばここで勝負ありと見做されるが、何故か主審は何も言わず見守るだけ。その対応にローガンが気を取られた隙にラシオスが後ろに飛び退き、再び距離を取る。


 主審及び副審を務めるのはモント公国大公妃メラリアの護衛だ。彼らは主人から『どちらかが怪我を負うまで続けよ』と命じられている。侍女によって放たれた矢がどちらかに当たるまで、できる限り決闘を引き延ばすつもりなのだ。


 主審たちはまだ知らないが、侍女は捕まり、クロスボウも押収された。もう外部からの干渉は不可能。誰の目にも明らかなほど木剣で打たれるか、どちらかが負けを認めるまで勝負は終わらない。


「……手が届き、声も届くというのに、相手に想いを伝えぬのは愚かな選択だ」

「ローガン殿?」


 険しい表情でローガンが呟いた。彼の様子がおかしいことに気付き、ラシオスは首を傾げる。優勢だったにも関わらず、あと一歩のところで打ってこない。実際に剣を交え、実力差があるとラシオス自身が一番よく分かっている。


「オレは婚約者を不幸な事故で亡くしている。そのせいで『呪われた王太子』などと噂され、国内の令嬢は誰も近寄ってこない」

「なんと!……そうだったのですか」


 アイデルベルド王国の次期国王だというのに、ローガンには婚約者がいない。何故だろうと不思議に思っていたが、そんな事情があったのだ。


「死に目にも会えず、伝えたい言葉も言えずに終わった」

「……くっ」


 悲痛な胸のうちを明かしながら、ローガンは木剣を振り回してラシオスを狙った。何とか攻撃を捌き、ラシオスは彼の話に耳を傾ける。


「あんな淋しげな顔をさせるくらいなら、フィーリア嬢をオレにくれ!オレは今度こそ婚約者を守り切る!」


 ローガンは木剣を高く振り上げて叫んだ。

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