40話・仕組まれた舞台

「……やはり、そうなのですね」


 メラリアの態度から、フィーリアは今の仮説が真実であると悟った。もしローガンが怪我を負い、ブリムンド王国の手によるものだと思われれば最悪戦争が起きる。そうと分かった上で、メラリアは手を下していたのだ。


「だったら何だというの。あたくしを罰するつもり?このあたくしを?」


 何人なんぴとたりともそのような真似は不可能であるとメラリアは確信している。事実、これまで数多の疑惑があったが、彼女が罪を問われることは一度もなかった。夫である大公が全て揉み消してきたからだ。故に、これからもそうであると信じ切っている。


「……残念です大叔母様。此度の決闘は、。大叔母様は、まんまと罠に掛かってしまわれました」


 驚いて目を見開くメラリアの視界に貴賓席へとなだれこむ警備兵たちの姿が映った。侍女たちは捕まり、メラリア自身も取り囲まれてしまう。


「無礼な!あたくしを誰だと──」

「大叔母様はもう大公妃ではありません」

「なんですって!?」


 フィーリアの言葉を合図に、一人の青年貴族が貴賓席へとやってきた。


「フィーリア嬢。先ほど届いたばかりの書状だ。既にブリムンド国王とアイデルベルド国王は内容を確認済みだよ」

「ありがとうございます、アラン様」


 フィーリアに書類を手渡したのはアステラ王国外務大臣のアラン・ヴィクランド。そして、彼の後ろの通路には純白の法衣に身を包んだ青年が立っている。長く白い髪を揺らしながら貴賓席へと足を踏み入れたのは、ハイデルベルド教国の大司教ルノー・カイネンベルグ。近隣諸国の聖職者の中でも最高位に位置する彼は、大公妃メラリアの前に出て軽く手を掲げてこう宣言した。


「モント公国の大公からの申し出により、婚姻は正式に破棄されました。あなたの後ろ盾はもうありませんよ」


 あまりのことに、メラリアは言葉を失った。

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