16話・アリストス対ジェラルド 2

 魔力持ちは非常に稀少な存在である。故に平民が魔法または魔術を見る機会は一生に一度あるかないか。それが目の前で競い合う様が見られるのだ。一般観覧席には立ち見客が溢れ、通路や階段を所狭しと埋め尽くしている。


「第三試合、始めッ!」


 審判役の合図があっても、二人はまだ動かない。盛り上がる観客席を見上げ、それぞれ対照的な反応を示している。


「観客が多いと気分がアガるな!」

「……嬉しそうですね叔父上」

ブリムンド王国こっちに来てからずっと大人しくしとったから腕がなまっておるのよ。数日振りに思い切り撃てるのだから、そりゃ嬉しいさ」


 テンション高めのジェラルド卿に、アリストスはやや引いていた。便宜上『叔父上』と呼んではいるが、彼は遠縁の親戚である。その叔父が母の兄……伯父と性格がよく似ていて、嫌でも血の繋がりを感じてしまう。


「早速始めましょう」


 予備動作も詠唱もなく地面に炎が走った。燃え盛る炎がアリストスを外部から守るように壁を作る。

 ジェラルド卿は無数の火弾を生み出し、その壁に向かって投げ付けた。最初の数個は掻き消されたが、徐々に壁に穴を開け、最終的に炎の壁は消滅した。


 観覧席から歓声が飛び、ジェラルド卿はにこやかに手を振って応える。だが、すぐにアリストスのほうに向き直った。


「ちと地味だな。もっとド派手に会場を沸かせたい。次はこちらから行くぞ!」


 言いながら懐を探り、鶏の卵ほどの大きさの球をひとつ取り出した。あれはなんだ?とアリストスが気を取られているうちに上に向かって放り投げ、その球目掛けて火弾を放つ。


 ドンッ


 命中した瞬間、球が爆ぜた。

 球は火薬を固めた爆薬のようなものだった。


 大司教ルノーの防御魔法で闘技場は覆われている。破片や火の粉が観覧席に飛んでくることはないが、爆風や熱は僅かに伝わる。目線の高さで爆発が起きるという臨場感溢れる演出に、観客は大いに盛り上がった。

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