17話・アリストス対ジェラルド 3

 火薬玉を爆発させるというパフォーマンスに会場は沸いたが、アリストスは不満気だった。魔術というものはこんなものか。この程度かと相手を侮る考えが頭の端に浮かぶ。

 生まれながらの魔力持ちで、素質を伸ばすより制御する方法ばかりを学んできたアリストスには、火薬に頼るジェラルド卿の戦い方が理解出来なかった。


「何故小道具を使うのです」

「おまえにゃ分からんだろうなァ」


 嘲笑うように、ジェラルド卿は懐から火薬玉をアリストスに向かって投け付け、火弾で着火する。叩き落とそうと腰に手を伸ばすが、武器が木剣であることに気付いて引っ込める。一発でも当たれば木製の剣などすぐに壊れてしまうからだ。

 仕方なく、アリストスは火弾より強い炎弾を周囲に生み出し、自分に当たる前に火薬玉にぶつけて相殺した。


「ハッハァー!調子が出てきたじゃないか」


 高笑いしながらジェラルド卿が取り出したのは今までの火薬玉の数倍はある塊だった。明らかに服の下に収まるはずのない大きさである。


「そんなものが懐に!?」

「魔術は技術の結晶、不可能を可能にするってなァ!」


 恐らく何らかの方法で空間を捻じ曲げているのだろう。

 ジェラルド卿は幾つもの火弾を操り、一抱えもある塊を闘技場の上空に飛ばし、アリストスに向かって「アレを撃て」と指示を出した。勢いに飲まれたアリストスは腰の木剣を抜いて構え、刃のない刀身に魔法の炎を宿らせる。


「はぁッ!」


 真上に向かって剣を振れば、炎の斬撃が真っ直ぐ塊目掛けて飛んでゆく。そして、命中した瞬間爆発が起きた。断続的に起こる軽快な炸裂音と光が闘技場の上空を数十秒間彩った。火薬だけではない。あの塊には予め魔力が多く込められており、アリストスの炎を切っ掛けに花火のように空に咲いたのである。


 茫然と空を見上げ、観覧席からの歓声をどこか遠くに聞きながら、アリストスは「参りました」と潔く負けを認めた。

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