11話・カイン対ハルク 2
木剣を構え、打ち、振り抜く。
迷いのない足運びと体捌きで行われる打ち合い。勝ち負けを賭けているわけではないと理解していながら、見る者はみな息を飲み、手に汗を握った。
次はどこへ移動し、どこを打つのか。
カインとハルクはお互いよく理解している。
本来ならば相手の一挙一動、呼吸ひとつまで逃さず観察して次の手を読む。その必要がない二人は、型通りの動きを繰り返しながら闘技場の中央から観覧席を注意深く見上げた。
ブリムンド王国第二王子ラシオスとアイデルベルド王国王太子ローガンの揉め事に対する国王の判断を聞いて、各国の招待客は疑問を抱いた。
婚約者の奪い合いをイベント化するなど不謹慎ではないか。渦中の侯爵令嬢フィーリアは高位貴族とはいえ王族には逆らえない立場にある。彼女を賞品のように扱うなど倫理的に良くないのではないか、と。
だが、決闘は決まった。
前座として、各国の貴人が連れている護衛同士を戦わせる話もすぐにまとまった。
恐らく何らかの意図があるのだろうと察しの良い者は気付いている。カインの護衛対象であるヴィクランド侯爵と、ハルクの護衛対象である大司教ルノーも聡い部類の人間だ。イベントに乗る振りをして企みを探るつもりなのだ。
国籍の違う身分ある者が一堂に会する機会など滅多にない。それこそ、今回のような王族の婚姻でもなければ。
祝いの席に招かれた国々は友好関係にあるが、過去には諍いもあった。表面上は笑顔で接していても腹の底では何を考えているか。
今の試合も、貴人から護衛を引き離すための方便のように思えてならない。
だからこそ、カインはジェラルド卿が戻るまでヴィクランド侯爵の側から離れなかった。ハルクも、副隊長のイルダートが居なければ試合への参加を辞退していただろう。
「カイン殿」
「ああ」
至近距離で剣を交えるタイミングでハルクが声を掛けると、カインは小さく頷いてみせた。
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