12話・カイン対ハルク 3
闘技場をぐるりと囲む観覧席。
その中ほどの段に貴賓席がある。貴賓席は試合がよく見えるよう遠過ぎず近過ぎずの位置にあり、下部、上部、そして左右は覗き防止のため突き出た壁で仕切られている。一区画五、六名ほどが寛いで座れる長椅子が置かれ、護衛や小間使いが数名控えていられるだけの広さもある。
故に、全ての貴賓席の様子を見渡すのに一番適した場所は闘技場の中心部と言える。
カインとハルクは剣を交えながら貴賓席を観察し、ひとつの貴賓席に不審な点を見つけた。護衛を付けずに観覧している貴人がいたのである。
「どう思う?」
「あれだけでは判断しかねる」
「まあ、確かに」
不審ではあるが、即ち悪とは言えない。偶々そうなっただけかもしれないし、ブリムンド王国の治安の良さを信頼……悪く言えば油断してしまっただけかもしれない。
何より『彼女』は決闘に関わらない立場として、部下を審判役にと差し出している。今、この試合を取り仕切っている主審と、闘技場の四隅に待機している副審たちも彼女の部下である。
まさか自身の護衛を考えていなかったのだろうか。それとも、彼女の後ろに控える侍女たちが護衛代わりなのだろうか。
結局怪しいと言い切れるほどのものは見つからなかった。最後に大きく木剣を交えて打ち合いを終える。深々と礼をして剣を下ろした二人を見て、審判役はやや困惑しつつ「引き分け」を宣言した。
見事な演武に観客たちは惜しみない拍手を送り、二人は軽く手を上げて応え、闘技場を後にした。
「仕掛けて来なかったな」
「直接的なやり方とは限らん」
言葉少なめに意見を交わし、控えの間に入る。ここは決闘を前に装備を整える場である。世話係が常駐しており、飲み物や軽食が用意されている。
「では、また」
「ああ」
木剣と引き換えに預けていた剣を受け取って腰に差すと、カインとハルクはそれぞれ持ち場である貴賓席へと戻っていった。
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