10話・カイン対ハルク 1

 闘技場の中央で向き合う二人の騎士。出立いでたちは軽装備、武器は主催側が用意した木剣を腰にいている。

 追加で防具を勧められたが、彼らは「攻撃は当たらないのだから必要ない」と辞退した。それを聞いた世話係は(相手の攻撃をかわすか弾くかして食らわないつもりか)と思った。



 《第二試合》


 アステラ王国代表

 騎士団長カイン


 対


 ハイデルベルド教国代表

 聖騎士団遠征部隊隊長ハルク




「第二試合、始めッ!」


 審判役の合図を受け、二人は構えた木剣の先が触れ合うくらいの位置までじりじりと近付いた。ここまで寄れば小声でのやり取りが可能となる。


「久し振りだな、ハルク殿」

「そちらも元気そうで何より、カイン殿」


 ハルクとカインは見習い時代の合同遠征任務で出会った。生真面目で実直な性格、似た者同士の二人はすぐに意気投合し、現在まで付き合いが続いている。

 直接会うのは数年ぶりで、今回のブリムンド王国滞在中もお互い護衛任務があってなかなか個人的に会う時間が取れない。積もる話は山程あるが、それよりも相手の力量がどれほど上がったかが気に掛かった。


「我らは王子たちの前座。楽しんでろう」

「ですな。では、あの時のように」


 ニッと笑い合い、切っ先を当てると同時に後ろに飛び退き、木剣を身体の前に構えた。流れるように駆け、近付く度に剣を振り、避け、また離れる。決して狭くはない闘技場を縦横無尽に駆け回り、打ち合っていく。


 不規則に思えた動きも繰り返されるうちに一定の法則が見えてきた。観覧席から全体を見ている者はすぐに気付いただろう。これが勝負ではなく『演武』であると。


 二人とも勝利にこだわりはない。旧知の友と剣での語り合いを楽しんでいる。だが、ただ楽しんでいるわけではない。


 貴賓席は仕切られており、近隣のブースの様子は窺えない。だが、唯一全体を見通せる場所がある。


 カインとハルクは剣を合わせながら会場に目を光らせた。

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