第3章 騎士と聖騎士
9話・侯爵と騎士と魔術師
「まさか、おまえが戦うことになるとはな」
貴賓席のひとつでは、招待客である高位貴族の青年がフッと口の端を上げて笑った。隣に立つ騎士姿の男性に対し、やや棘のある言葉を投げる。
「招待国からの要望だ。無下には断われん」
「付き合いもある。参加してくれると助かる」
貴族の青年はアステラ王国のヴィクランド侯爵である。国内外に顔が利く彼は、年老いた国王の代理として遠方のブリムンド王国までやってきた。
輝く金の髪を気怠げにかき上げれば、出番だと呼びに来た侍女が顔を赤らめて逃げ去っていく程の美貌の持ち主である。
「相手の騎士は一時懇意にしていた者でな。久々に手合わせ出来るなら願ってもないことだ」
「ほぉ、私以外にそんなに仲の良い相手がいたのか?カイン」
面白くなさそうに頬杖をつく侯爵を見下ろし、カインと呼ばれた騎士は笑いを噛み殺した。
貴族と護衛の騎士という体ではあるが、彼らは学生時代からの友人である。カインも貴族の出身だが義弟に跡目を譲り、現在は騎士団長として主に要人警護の任に就いている。
「で、もう一人の護衛殿はどこへ行ったのやら」
……と話題に出たところでマントを羽織った男が貴賓席に飛び込んできた。手には山ほどの串焼き肉やパンの入った包みと果物を抱えている。
「いやあ大量大量!美味そうなものがたくさんあったから全部買ってきた!」
「ジェラルド卿、表の屋台で買い食いしてきたのですか」
「左様!腹が減っては戦えんからな!」
ガハハと豪快に笑うのは赤茶の長い髪を後ろに撫で付けた三十過ぎの青年である。
ヴィクランド侯爵の護衛は騎士カインだけではない。王宮お抱え魔術師のジェラルド卿は実力は確かなのだが、マイペースで時々任務を忘れる。
「さて、ジェラルド卿も戻った。そろそろ闘技場に降りる」
「ここから見ているからな、カイン」
護衛の交替要員を確保してから、カインは貴賓席から出ていった。
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