8話・第一試合終了

 第一試合はサウロ王国代表グナトゥスに軍配が上がった。会場は割れんばかりの歓声に包まれ、勝者を讃えている。

 さっさと闘技場から出たシヴァは主人が待つユスタフ帝国の貴賓席へと戻った。


「負けた。すまん」


 短い言葉で謝れば、主人である赤い髪の高貴な青年は呵呵かかと笑った。敗退の詫びに来たくせに、偉そうに踏ん反り返っている部下が可笑しいからだ。


「構わん。これはただの余興。勝とうが負けようが何も得るものはない」

「だが」

「おまえはグナトゥスを意識し過ぎだ。最初から彼奴に呑まれておったのよ。それでは勝てるわけがなかろう?」

「……」


 確かに、対戦が決まってからずっとグナトゥスを観察していた。いや、そうなる前から手合わせの機会を窺っていた。ヴァーロートの指摘に、シヴァは言い返すことも出来ず口を噤む。


「面白いのはこれからだ。おまえは俺の側から離れるな。此度の決闘騒ぎ、裏があるぞ」

「……ああ」


 高い位置に設けられた貴賓席は突き出た壁で仕切られ、隣のブースが覗けないようになっている。だが、反対側の席は遠いが様子は見える。

 真向かいにある一際大きな貴賓席は主催のブリムンド王国の王族専用のブースだ。日除けの薄絹が掛けられていてハッキリとは見えないが、国王や王妃、王子たちが観戦しているはずである。


 くつくつと愉快そうに笑う主人の隣に立ちながら、シヴァは戦士から護衛の顔に戻った。





「見事な勝利ですグナトゥス殿!」

「偶々じゃ。もう少し試合が長引いたら負けておったかもしれん」

「ご謙遜なさいますな。圧倒的な強さでした」


 サウロ王国に割り当てられた貴賓席では、共に招待された青年貴族がグナトゥスの勝利を祝った。


「第三試合に出るそうじゃの?アリストス殿」

「ええ、先方から指名されましたので」


 アリストスと呼ばれた青年は爵位を継いだばかりの二十歳の若者である。彼は銀の髪を揺らし、不敵に笑ってみせた。

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