6話・グナトゥス対シヴァ 2

 自分の脳天目掛けて勢い良く振り下ろされた木剣を、シヴァは数歩退がって回避した。

 標的を失った剣先が地面に当たる、その直前でグナトゥスはぴたりと腕を止めた。思い切り振り下ろせば地面を抉ってしまうからだ。今はまだ第一試合。闘技場を破損するわけにはいかない、と考えたのだろう。


「大袈裟に避けるでないぞ。これはただの木切れ。子どもの騎士ごっこと同じじゃ」

「……アンタが持てば木切れも凶器だ」


 再び距離を取りながら、二人は試合が始まってから初めて言葉を交わした。


 シヴァが軍に入る前に戦争は終わり、ユスタフ帝国とサウロ王国は以降争ってはいない。国境でトラブルが起きる度に顔を合わせ、賊の討伐などで共闘することもあった。

 だが、剣を交えた経験はない。


「ヴァーロートのお守りでブリムンド王国こんなところまで来た甲斐があった。アンタと戦えるとは」

「ほほっ、そんなに儂とやりたかったか」

「おうよ!」


 今度はシヴァから仕掛けた。

 身体を屈めてから地面を蹴って真っ直ぐに跳躍し、一気に間合いを詰める。迎え撃つグナトゥスが正面に木剣を構えるが、自分の木剣で弾き、頭を狙って蹴りを繰り出す。左手のガントレットを軌道上に素早く挟んで受け止めたグナトゥスは、蹴りの重さに思わず呻いた。


「おお酷い若者じゃ。年寄りを足蹴にするとは」

「やかましい。さっさと本気だせ」


 じんじんと痛む左手を振りつつも余裕のあるグナトゥスに、シヴァが眉間に皺を寄せた。


「おまえさんは剣より体術が得意と見える」


 ヴァーロートがシヴァを紹介する際、剣士や騎士ではなく『我が国最強の戦士』と称した。

 常時帯剣してはいるが、彼の武器は剣ではない。その証拠に、先ほども邪魔な木剣を退かすためだけに自分の木剣を振るった。攻撃には用いてない。


「実は儂も剣より拳のほうが得意なんじゃよ」


 グナトゥスは持っていた木剣を後ろに放り投げ、ガントレットも取り去った。

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