第2章 戦士と戦士

4話・因縁の対決

 決闘当日。

 普段は閑散とした王都郊外の闘技場周辺には数多くの屋台が立ち並んでいた。

 希望者が全員闘技場に入場できるわけではない。貴賓席以外の一般観覧席には限りがある。決闘は無理でも、せめて出入りする王族や貴族の姿をひと目見ようとする者、お祭り騒ぎを楽しみたい者で辺りは賑わっていた。


 メインイベントは王子同士の決闘だが、それだけではすぐに終わってしまう。ならばこの機に自慢の騎士・兵士を見せびらかそうと、王侯貴族たちが自分の護衛を他国の護衛と戦わせることにした。


 踏み固められた土の闘技場をぐるりと囲むように階段上に座席が造られ、場内を見渡しやすい位置に貴賓席がある。各ブースの左右には壁があり、隣が直接見えないようになっている。各国からの招待客はそれぞれのブースに陣取り、武の宴を楽しんだ。





 第一試合から場内を沸かせる組み合わせとなった。サウロ王国の国王名代として招待されていたクワドラッド辺境伯グナトゥスが自ら参加を希望したからである。グナトゥスは大陸最強の異名を誇る剣士だが既に現役を引退した身。二人の孫がいる白髪の老人だ。


 彼の参加を聞きつけ、ユスタフ帝国が対戦を申し込んだ。サウロ王国とは国境を接し、数十年前に戦争が起きている。現在は不可侵条約を結んでいるが、水面下で小競り合いが続く微妙な関係だ。

 ユスタフ帝国第一皇子ヴァーロートは自分の腹心とも言える者を出した。長い黒髪を首の後ろで束ねた、黒い甲冑を身に付けた三十代前半の戦士だ。グナトゥスとは親子ほどに年齢が違う。


「我が国最強の戦士シヴァだ。先の戦の時に此奴がいれば勝てただろうよ」

「ほぅ、生意気を言いよる。その頃に居ったとしても儂は全盛期じゃ。結果は変わらんよ」

「ほざけジジイ」

「坊主は口だけは達者じゃのぉ」


 グナトゥスに挑発されて熱くなる主人を片手で制し、シヴァはゆっくりと闘技場の中央へと向かった。

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