3話・勝利のための努力

 王宮の中庭で木剣を手に対峙する二人の青年の姿があった。ラシオスは肩で息をしながらも剣先を下ろすことなく構えている。向かいに立つ軽装の青年は従者カラバス。疲労困憊のラシオスとは対照的に呼吸ひとつ乱していない。


「殿下、そろそろ休まれては?」

「大丈夫だ。続けてくれ」

「そう申されましてもねぇ……」


 特訓を始めて丸一日。ラシオスはお世辞にも頑健とは言えない身体つきで体力がない。これ以上無理をすれば明後日の本番にも響いてしまう。


「私の役目は貴方様をお守りすること。決して痛めつけるためではないのですが」

「分かっている。だが、僕にも意地がある!」


 ラシオスの目は真剣そのもの。普段の温厚な彼からは想像も出来ないほど闘志に燃えている。主人あるじの熱意に圧されながらも、カラバスは小さく息をついた。


「努力の方向性がズレている気がしますが……貴方様のために秘策を伝授致しましょう」





 他国から招かれた客人には広大な王宮庭園内にある離宮が滞在場所として提供されている。アイデルベルド王国王太子のローガンも離宮のひとつを充てがわれていた。

 離宮の一室、板張りの床の部屋でローガンは黙々と腕立て伏せや柔軟運動を行なっていた。上半身は袖無しの肌着一枚。しなやかな筋肉が無駄なく付いており、日頃から鍛えている様子が窺えた。


「ローガン様、夕餉の時間ですよー」

「ん、今行く」


 護衛兼従者のヴァインに呼ばれ、ローガンは素直にトレーニングを中断した。汗で張り付く肌着を脱ぎ、用意された手拭いで身体を拭いて手早く着替える。


 離宮のテラスに用意された食事の席には既に客人が腰掛けていた。


「すまん、待たせた」

「構わないよ。私が好きで来ているのだから」

「おまえは相変わらずだなルキウス」

「君もね、ローガン」


 そう言って笑う客人の髪色は銀。

 彼はローガンの決闘相手であるラシオスの兄、ブリムンド王国第一王子ルキウスだった。

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