第4話【氷刀使い 氷室聚楽】

 今俺は再々度A4コピー用紙に分割印刷した召還円を並べている最中。僧兵を召還したときに部屋中を舞ってしまったため最初から並べ直さなくてはならない。とは言えA4コピー用紙の裏面に番号を振ってあるから番号順に並べた後で隅からひっくり返していけばいいだけだ。その上今回はお手伝い要員が二人いる。候補と僧兵だ、二人が手伝ってくれるのでかなり時間を短縮できている。だが反面二人が三人になると俺抜きで会話が成立するわけである。


「お主、元の世界に戻る方法を聞いておるか?」僧兵が紙を並べながら候補に訊いた。

「ジタバタしてもしょうがあるまい。己がこの先どのような戦場に身を置くかは解らん、そう考え割り切っている」やはり紙を並べながら候補は僧兵に返答した。

「しかし、エリートコースに乗ったのだろう? こんな所に呼び出されて人生脱線させられたのでは腹の虫が収まるまい」

「ほう。貴殿、陸軍幼年学校がエリートコースだと解っておるか」

「聞いたことがある」

「ちょい二人。なーに仲良くなっちゃってるの? リーダーはこの僕ってことになってるでしょ?」

「貴様が班長だったか?」候補がいかにも『俺は認めてねえ』といった口調で言った。

「みんなを呼び出した責任ってモンがあるでしょうが」

「よもや元の世界に戻れないなんてことはないだろうな?」今度は僧兵に訊かれる。

 どう考えも陸軍幼年学校とやらに比べると薙刀の師範の方がうだつが上がらなさそうだけど。元の世界に戻りたいの? もしかして。しかし——

「呼び出すだけ呼び出して戻せないなんてことがあるわけないからな!」と俺は断言した。こういう時は断言はするに限る。ただ、〝戻すの〟ってやったこと無いけど。

「ところで何人呼び出すつもりだ? 貴様無計画でやっているのではあるまいな?」候補が詰問してきた。

「無計画に見える?」

「見える」

「……」

「何人だ?」さらに候補に詰め寄られる。

「五人だよ。五人」

 戦隊モノの人数が咄嗟に頭に浮かんだのだろう。思わず口からそう出た。そして再々度、165枚もの紙をようやく並べ終えた。


 今まで集めたのは異能というよりは異脳なんだよな。イケメンなのに脳がどこか異なっているというか、そういうのしか来てない。そろそろ本物の異能戦士が来てもいいだろ。

 目を閉じる。そうしてそのイメージを固めていく。よしっ、と思ったところで詠唱を始める。


「拝啓、異能なイケメンの皆さん、私は一超イケメンです。さて、方々、きっとこの召還に面食らうことでしょうが貴男は応じるべきです。なぜならば、我々はイケメンでありしかも異能の持ち主。これをどう人生に生かすか、イケメンである者の本音がこの召還によって明らかになるからです」


「なんだこれは?」僧兵の呟きを俺の耳が拾う。

「二度目だが何とも言えない気分になる」と候補。

 るっせーな。

 またもA4コピー用紙がぶああーっと部屋中を舞いだした。


 姿を現したのは——光の剣を握りしめた銀髪のイケメン。純白の学ランモドキを金銀モールで飾り立てる出で立ち。

 おおーっ! やった! 前の二人にゃ悪いが一番のアタリじゃねーか!


「遂に異世界召還! これで無双だっ!」銀髪のイケメンが吠えた。


 聞いた瞬間なんか嫌な予感がした。しかしその予感も一瞬間の事。銀髪のイケメンは金銀モールを棚引かせ薙刀を手にした僧兵に襲い掛かる。しかしもうその時には構えの姿勢をとっていた僧兵。

 銀髪のイケメンが手にした光の剣と僧兵の手にした薙刀。二つの得物が真っ向から衝突する激しい音が————、まったくしなかった。



 銀髪のイケメンは僧兵の手にする薙刀に攻撃を加えるも柄の部分から薙刀が切られるとかそうした事も起こらず、スカスカと通り抜けていた。僧兵はこの銀髪のイケメンに反撃してよいものかどうか困惑しているらしく隙の無い構えを崩さずただ微動だにしていないだけ——


「ダメだ……氷刀ひょうとうどうしでなければ干戈かんかも交えることができない……」銀髪のイケメンがつぶやいていた。光の剣も消えてしまった。


 ……う〜ん、喜びはつかの間、一番残念な者を呼び寄せてしまったらしい……。コレ、召還中に僧兵と候補がいらぬお喋りをして人の気を散らせたせいじゃねーの? しかし銀髪という所だけはポイントが高い————

 まあ取り敢えず、小柄で多少童顔であるがイケメンであることは間違いない。ここは召還者として儀式的に声を掛けようか。


「さっそくだけど僕の名は鳳生神酒三郎ほうしょうみきさぶろう。イケメン同士、共に戦うために此処へ呼んだ。戦う相手はこの世のあらゆる不正義だ」

「コレは〝決め台詞〟なのか?」脇から僧兵がツッコンできた。

「いいから黙っててくれよ」と僧兵に釘を刺すと、

「氷室聚楽(ひむろ・じゅらく)……」と横から声がした。

 顔をそちらに向けると銀髪クンは生気の無い死にそうな顔をしていた。とにかく〝決め台詞〟だとかなんとか言われようと言うべき事は言わねーと。

「元の世界に執着しなければならないモノが無い者、そういう者ほど召還されやすい」そう定番的に口にした。すると、

「そうか。ここはあの世みたいなところか……」と、銀髪クンはとても嫌な事を言ってくれる。だがここは事情を訊いて聞いてあげるというのがリーダーってもんでしょ!

「さっき〝氷刀〟とか言っていたけど」と振ってみる。

「ああこれね」と言って銀髪クンは再びその手に棒状の光を現出させた。

「これが氷刀。ただし相手も氷刀使いでないと武器として機能しない。異世界に召還されれば氷刀でも普通の武器のように使えると思ったのに……懐中電灯の代わりにしかならない……」


 堪えるのに非常に苦労した。


「だったら剣技を生かすために別のモンを握れば? 木刀とか」とポジティブに振ってみる。

「ダメなんだ……」しかし銀髪クンはネガティブ。

「どうして?」

「物質的得物は長さが決まっているから。氷刀は自分の体内から造り出しているから長さも自由自在になるんだ……」


 それってどんな時も相手の攻撃が届かないところから攻撃したかったってこと? なんつーか、やり方、いや思考が割と卑怯だよな。

 こーゆーのにウルサイのは——と思いつつ候補の方を見ると。ただただ茫洋とした顔をしているだけ。この死にそうな顔を見ると何か言ってやろうという気も無くなるのか……


「もう懐中電灯でもなんでもいいじゃねーか。ピカッと光らせりゃ目くらましになるかもしれねーし。できないことを嘆いていてもしょうがねーよ。できること探していこうぜ」

「鳳生くん……、召還されて良かった……」


 おおっ! 初めて召還したモンに感謝されたぜ! 思わず候補と僧兵の方を見るとじとっとした目で見つめ返されただけだった。

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