第5話【スナイパー ピエトロ・ライフル】

 銀髪クンは非常に協力的である。候補や僧兵に比べると。だからあっという間に165枚ものA4コピー用紙に分割印刷した召還円は完成していた。


 さて、次はどんなヤツを召還しようか。


 ふと思いついた。ここまで〝日本人〟しか召還してねーな。


 ここはイケメンの外国人だ! イケメンの外国人を混ぜれば相当に目立てる! だがイケメンの外国人は相当にリスキーだ。ひょっとしてイケメンの日本人よりモテるかもしれねぇ。だがここは変化球が必要だ。多様化だ! そんな時代だ! 時代の空気を読まなきゃ、でなければスポーツ野郎に勝てない! 行くぜ! 待ってろ! イケメンの外国人!

 こうして俺はイメージを浮かべ固めていく。そして詠唱を始める——


「拝啓、異能なイケメンの皆さん、私は一超イケメンです。さて、方々、きっとこの召還に面食らうことでしょうが貴男は応じるべきです。なぜならば、我々はイケメンでありしかも異能の持ち主。これをどう人生に生かすか、イケメンである者の本音がこの召還によって明らかになるからです」


「わぁ、こうやって僕はここへ召還されたんですね」と銀髪クンの声が耳に届く。

「お主、声調子がどこかおかしくないか?」と僧兵の声。

「三度聞いてもまだ慣れない」とまたも候補。

 お前らさぁ少しは銀髪クンを見習え——と思った瞬間A4コピー用紙がぶわわーっと宙に舞った。



 姿を現したのは——腹ばいに横たわる外国人。薄い薄い髭を不精髭にして伸ばしている少年兵なイケメン外国人。ワイルドっぽくて——、俺の思考の途中で「狙撃銃かこれは?」と候補が口にしていた。そう。だから俺も少年って思った。

 少年兵なイケメン外国人は腹ばいでライフル銃を構えていた。ただしそのライフル銃、銃身がスッパリ無くなっていた。

「うわあああああああっ! 怒られる怒られるっっ!」少年兵なイケメン外国人はワンテンポ遅れて狂乱を始めていた。


 スッパリ切れてたその原因は簡単だ。召還円の直径が原因だろう。ライフル銃は長い。二メートルあるのかもしれない。そんなものを腹ばいで使ったのなら使っている人の身長を足すと全体の長さは四メートル近くにもなるだろう。一方召還円の直径は三メートルほどだから入りきらない部分が切れてしまうというわけだ。


「なんでこの外人は日本語を話している?」候補が俺に訊いてきた。

「召還者のことばが解るようになるんだよ。方眼ちゃんも僕も日本人だから僕が解ることばは当然方眼ちゃんも解るってわけ」

 そう説明した反応は「妙な術だ」と言ったのみ。

 そんな素っ気ない態度を気にするより今すべきはこの少年兵なイケメン外国人の錯乱状態を解くことだろう。傍に寄って屈み、心やすい調子で声を掛ける。

「ちょっと起きて座ってくれよ」

「大事な、大事な備品のライフルがこんなになっちゃった! 怒られる、怒られる!」

 まだ錯乱が収まらない。

「此処は既に元の世界じゃない。それが壊れたとて文句を言う者は誰もいない」俺はそれを保証した。

「誰なんだ?」少年兵なイケメン外国人は初めて視線を合わせてくれた。

 ようやく正気を取り戻してくれるらしい。

「僕の名は鳳生神酒三郎ほうしょうみきさぶろう。イケメン同士、共に戦うために此処へ呼んだ。戦う相手はこの世のあらゆる不正義だ」

「いやもう戦いたくない! もう戦いはウンザリなんだ!」

 なんか、ずいぶん重たい奴を召還してしまったような……

「これまで何をやっていたんだ?」と訊くしかない。

「狙撃兵だ。『敵の指揮官を狙え』と命令されるままに狙撃してきた。どうしても当たる瞬間をスコープで見てしまう!」


 これは予想しなかった。見たところこの少年兵なイケメン外国人は軍服を着ていない。それなのに〝狙撃兵〟とは——、それに改めて見ているとばかにほこりっぽい。いったい何処の紛争地帯から召還した?


 まあいい。こっちはこっちで次の台詞を言うのみ。

「元の世界に執着しなければならないモノが無い者、そういう者ほど召還されやすい」

「そうか。だから来たんだな……」そう言って少年兵なイケメン外国人はぎゅっと俺の手を握った。

「君は神の使いだ——」


 どうよ、二人目だぜ! と候補と僧兵の方を見ると、相も変わらずじとっとした目で見つめ返されるだけだった。

 はあ? どう考えても俺良いことしただろ! あっ、そんな事よりまだ名前聞いてねーや。顔の向きを元に戻し「名前を教えてくれないか?」と訊いた。

「ピエトロ・ライフル」

 ピエトロなんていかにもイタリア人然な名前してるけど、確実にイタリア人なんかじゃねーな。ツーブロックな大日本帝国軍人がいないのと同じだ。名前が〝ライフル〟なんてありえねー。

「じゃあライフルちゃん。これからは面白おかしく日常を過ごそうぜ!」

 そう声を掛けるとぶわっとその目に涙が溢れた。

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