第2話【幹部軍人候補生 方眼忠一】

鳳生ほうしょうとやら、いつまで鏡の前で己の姿に見惚れているつもりか?」

「まあまあ方眼ちゃん、そう尖らないで。名前も似てるんだしもっとフレンドリーにいかない?」

「〝ほう〟だけだろうが」

「そんな難しい顔ばかりしてるとせっかくのイケメンが台無しよ? 少しは自分の今の価値に気づこうぜ」


 イケメンでかなりキャラが立っていてしかも俺とかぶらないというのは上々の滑り出しなんだよな。俺が初召還に成功したこの軍服姿のイケメンは名を方眼忠一(ほうがん・ちゅういち)という。

 〝召還〟。そんなバカな事ができるものか、と普通の人間は思う。思うから何もしない。

 だが俺の場合思うけどやってみる。ヤッパ俺って普通の枠には収まらねーわ。


「今の価値だ? 早く幼年学校を修了し士官学校へと進み晴れて任官を受けてこそお国の役に立つ価値ある人間になれるというものだ」

「いやいや、その手の〝社会の役に立つ〟系の価値じゃなくて、この時この瞬間の自分に価値があるっていう感覚? そういうのも全然アリじゃねえかって」

「無いな。だいたい、『共に戦うために此処へ呼んだ』などと曰っていたが、亜米利加や蘇連と戦う気も無く、その上容姿と何の関係があるのか? 男子のくせにへらへらとし、意味も無く鏡の前に立ち呆け。この自分の問いをはぐらかしてばかりではないか」

 アメリカ、ソ連?いやロシア? なんてのと戦おうだなんて物騒だよな軍人候補生サンは。

「戦いの相手を国家限定にすんなよ方眼ちゃん。『戦う相手はこの世のあらゆる不正義』だってさっき言ったばかりじゃんか」

「どうにも真実味が乏しい。だいたいその『いけめん』という気味の悪いことばはなんだ?」

「さっきも言ったとーり、『顔が良い』って意味だけど」

「そんないかにもくだらなさそうな者にされてたまるか。男の価値は中身だろうが。戦うという行為と顔は本来なんの関係も無いだろう」

「ソレを言われちゃうと直接なんの関係も無いな」

「当然だ」

「だけどあった方が華がない?」



「……貴様とはどうにもソリが合わん」

「けどさ、それも〝悪くない〟って感覚なんだよな、俺、いや僕」

「志が異なる者同士、語るべきことばも無いと思うが」

「ときにぶつかり合うこともないとな」

「ときに? 〝いつも〟になりそうだがな」

「……」

「そもそも本気で戦うつもりなら顔ではなく身体を鍛練すべし。軟弱慶墺けいおうと名の高いその場所を捨て陸軍幼年学校を目指すべきだ。今15ならまだその資格はあるだろう」

「いやいやいや、人の行ってる学校に『軟弱慶墺』は無いでしょ? ウチの学校〝陸の王者〟って呼ばれてんだけど」

「何を言っている? 陸の王者は陸軍に決まっているだろう」



 ……いや、そーゆー意味じゃねえ。そりゃアンタら軍隊は武器持ってるから強いに決まってんでしょ。

 だいたい敢えてツッコンでいないけども、ツーブロックの大日本帝国軍人がいるかっての! アンタいったい何処の大日本帝国から来た⁉

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