第25話 避難

私達は今、体育館から生徒を学校外に避難させている最中だ。


突如として通告されたエリアモンスターの出現に、体育館内は騒然となっていた。また前と同じような悲劇が繰り返されるのかと多くの人が不安を感じている中、先輩は一人でエリアモンスターと戦いに行ってしまった。勿論私も一緒に行こうとしたが、足手まといだと言って拒絶されて私は何も言い返すことができなかった。


でも落ち込んでいる時間は無い。そんな暇があるなら一人でも多くの生徒を学校から出さなきゃ。


「落ち着け!パニックになるな!学校から出るまでは私達がモンスターを倒す!諸君らは逃げることだけに集中しろ!」


我先にと体育館の出口に押し寄せる生徒、もうおしまいだとその場にうずくまる生徒も会長の言葉に耳を傾ける。どれだけ混乱した状況でも意識を奪われるようなカリスマ性が会長にはあった。まさに人をまとめるために生まれてきたようだ。


その言葉に従うように体育館内は落ち着きを取り戻していく。事前に決めていた避難経路は校舎内を通って裏門から出るというルート。校舎内を通る理由としてはゴブリン達が入って来にくくするためだとか。私達が護衛するのは最前列と最後尾だけで済む。外に出たあとは近くの文化会館に向かう予定だ。そこになら街の人々がいると見越しての計画だが、そこまで上手くいくかどうか。


エリアモンスターが現れるまで5分を切り、会長の説明が終わったのでいよいよ避難が開始される。最前列の警護を務めるのは会長と青海さんだ。その二人に着いてぞろぞろと生徒が体育館から出て行く。そうなると必然的にあの天堂とかいう人達と私が殿を務めることになるわけで........。


「一緒にやるのはいいけどあたし達の足引っ張んないでよね!」


ギャルっぽい先輩が私に話しかけてくる。


「...........」


「ちょっと!何無視してんのよ!」


私はいざという時以外この人達とコミュニケーションを取らないことを決めた。もちろん業務連絡程度ならするけど、仲良くお話しするつもりはまったくない。校舎に入ればそんな余裕は無くなるだろうし、話しても気分が悪くなるだけだから。


私は無言を貫く。天院先輩が文句を言っているがそれにも反応しない。


「まあまあ、乃々落ち着いて。とりあえず僕達は護衛に専念しようよ」


それを男の先輩が諌めるようにして近づいてくる。


「えーっと、凍堂さんだったかな?さっきはごめんね。僕も頭に血が昇っちゃって。皆を避難させる間だけでもいいから仲良くしてくれると嬉しいな」


そう言って天堂先輩は頬をかいた。


「ちょっ!勇樹が謝る必要ないって!」


「いや、僕にも非があったからね。謝るべきだよ」


........なんでしょうか。とてもイライラしてきました。自分にも非がある!?むしろ貴方にしかないでしょうに!先輩を悪者にしようとしたのもそうですがやっぱりこの人達は好きになれそうにもありません。やはり無視しましょう。


そうこうしている間にカウントは残り1分になり、私達も体育館を出発する時間になった。前の方ではもう会長と青海さんが戦っている。私は気合を入れるようにミスティルテインの杖剣を強く握りしめた。





♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢





蓮が体育館の外に出てエリアモンスターを倒しに行き、私は教師や生徒に避難の指示を出した。


メッセージが現れた当初は皆戸惑っていたが、私の呼びかけに反応してくれた。今は彼らをまとめて体育館から出たところだ。私ともう一人、蓮が連れてきた青海 渚という生徒が一緒に最前列の露払いを担っている。


彼女の実力は未知数だが、蓮が連れてきたのだから決して弱くはないだろう。無条件の信頼、というわけではない。昔からアイツのことは知っているからこその信頼だ。蓮はいつでも信頼に足る行動を、言動をしてくれた。だからこそ私も蓮を信頼しているということだ。


「会長!」


「っ!ああ。分かっている。後ろの生徒は下がっていろ!」


蓮のことを考えている場合ではない。体育館から出た私達の匂いを嗅ぎつけたゴブリン共が前方から押し寄せてくるのが見える。その様はさながらゴブリンの波のようだ。


それを見た生徒達の間に恐怖が伝染していく。ここにいるほとんどが一度はゴブリンに襲われている。トラウマになるのも無理はない。


「私は右をやる!青海は左を頼んだ!」


「ええ!」


武器ガチャとやらから出た「童子切安綱」を構える。この刀は凄まじい切れ味を誇っているが、それゆえに扱いが難しい。今の私の実力ではこの名刀の性能を完璧に引き出すことはできない。だからホブゴブリンも倒すことが出来なかった。


だがゴブリンならば問題はない。一振りで数匹を斬り払い、また一度、また一度と刀を振る。絶対にここから後ろに通すわけにはいかない。廊下という狭い環境で長物を使うのは簡単ではないが今はこれしか使える武器がない。これでも小さい頃から刀の扱いを習っている身だ。壁や床に引っ掛けるようなヘマはしない。


「青海!一旦下がれ!」


私の声にすぐさま反応し、青海が後ろに飛び退いた。それを確認し、スキルを発動させる。


刀術一式 『飛燕』!


三日月型の斬撃がゴブリンの群れに突っ込み、それを両断して飛んでいく。私がとったスキル【刀術】の技の一つで、斬撃を飛ばすというシンプルなものだが役に立つ。この調子でもゴブリンの掃討にはかなりの時間がかかるとみた。


ピロン!


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レベルが上がりました!


————————————————————


頭の中でシステム音が響く。また一つレベルが上がり、ゴブリンを倒すのが少し楽になった。青海の方も心配なので早く終わらせたいが際限なく湧いてくるゴブリンに徐々に嫌気がさしてくる。まあ、いざとなればスキルを使うまでだ。


蓮の負担を減らすためにも迅速に避難を完了させなくては。迫り来るゴブリンを捌きながら私は決意を新たにした。








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