第24話 モンスターとは

誰もいない、いやモンスターの蔓延った廊下を俺は駆け抜ける。


体育館の生徒を逃がすために自分が戦うという選択肢を選んだことに俺が一番矛盾を感じている。最初、俺と俺の大切な人が生き残れればそれでいいとクラスメイトを見捨てたのに今度は全校生徒を助けようとしてるなんておかしくて笑いが出る。学校を出てからは気をつけよう。必要以上に人と関わらないように。


先程からゴブリンの数がやたらに多いので鬱陶しい。エリアモンスターが現れる前兆だろうか。今まで学校内を回ってきて感じていた違和感がやっと明らかになった。


俺は最近ゴブリン以外のモンスターを見たか?答えはNOだ。最初はいたはずの狼を途中から一度も見かけていない。俺の思考にそれがなにか引っかかっていたんだ。エリアモンスターの出現は、範囲内の同種族のモンスターが一定数に達したからだと「世界の意思」は言っていた。恐らく、その過程で狼はゴブリン達に淘汰されたのではないか。


俺はゴブリンにしろ狼にしろ、モンスターはモンスターだという認識を持っていたが、それは大きな間違いだった。ゴブリンも、狼も一種の生き物、生物なんだ。モンスター同士は仲間ではなく、人間と同じように争い合う敵でしかないのだろう。彼らは学校という場を縄張り争いとして利用していた。狼は既にいなくなり、残ったのは人間のみだ。


「今気づいても遅かったな.....」


襲いかかってくるゴブリンを捌きながらそう独りごちる。


だがモンスター同士で争うなら、この状況は人間を狙っておこされたものではないということになる。ラノベでよくある神がどうたらこうたらみたいなのじゃないのか?

.......今はそれどころじゃなかったな。


にしてもやはりゴブリンの数が多い。エリアモンスターと戦う前に消耗しそうだ。凍堂達の方にも同じくらいの数がいるはずなので少し心配だが、伊織や一応天堂もいるし大丈夫だろうと自分に言い聞かせる。


ピロン!


————————————————————


レベルが上がりました!


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俺に向かってくる最後のゴブリンを処理し、俺は屋上への扉を開けようとする。


........開かない。


そりゃそうか、鍵がかかっているんだった。恥ずかしいな.....押戸と引戸間違えたときくらい恥ずかしい。誰も見てなくてよかった。


鍵は持っていないので壊し、扉を開いて屋上に入る。普段なら町が一望できるが、もはやここからは廃墟じみた建物しか見ることができない。初日には黒煙こそ上がっていたが、いまや人が住んでいた痕跡もなにも見つけることは不可能だろう。そんな街を見て憂鬱な気持ちになりつつ俺は歩みを進める。


ここに来た理由はエリアモンスターが出現する場所を特定するためだ。高いところから見た方がわかりやすいかと思ってな。俺の予想では中庭に現れるのではないかと思っている。安直な考えだが、そこが学校のど真ん中だからだ。


屋上から見て確信した、エリアモンスターが現れるのは中庭だろう。他の場所とは比じゃないほどゴブリンとホブゴブリンが集まっている。エリアモンスターを相手にするならあの群れも倒さなきゃいけないのか?キツすぎるだろ.....。


エリアモンスターが現れるまであと5分。それまでにコイツらを一掃することが要求される。屋上からはゴブリン達が丸見えだ。


「音....出ても問題無いよな」


右手に魔力を集め、放つ。中庭に白い閃光が降り注ぎ、ゴブリン達を消し炭にしていく。俺の奥の手、【無限魔力】を使った魔力放出だ。今までは室内で行動していたため、建物の倒壊を気にして使えなかったが、開けた中庭なら話は変わってくる。


未だに完璧な指向性を持つようには撃てないが、以前とは違い自分を傷つけないようにくらいはできるようになった。


大雑把に撃ったのでまだ何体か生きている。それを処理すべく、俺は屋上からアクション映画さながらに飛び降りた。レベルアップにより強化されたこの肉体はどこまでの強度なのか非常に興味があるが、それを検証していて怪我をするのもなんだ。自然治癒能力が高まっているとはいえ無闇矢鱈に怪我をするのは得策とは言えない。

 

ホブゴブリンの頭の上に着地してその頭蓋を踏み潰すと、近くにいたゴブリンに斬りかかる。前よりも身体が軽い、レベルアップの更なる恩恵だな。


「ふっ!」


流れるような剣捌きで生き残ったゴブリンを倒していく。ゴブリンなんざ今の俺では敵にもならない。というか最初の頃ですら「純黒」があったので相手になっていなかったが、やはりゴブリンの脅威は数だ。筋力も、速度も対して高いわけではないゴブリンにも一つは長所がある。家庭科室のときのことは一生忘れられないだろう。


あらかたゴブリンを片付け終わり、次は怯んでいるホブゴブリンに取り掛かる。戦闘で腰が引けていてはどうにもならない。相手に怯え、逃げ出すのならあとは狩られるのみ。


その通り、ホブゴブリンの殲滅はすぐに終わった。なまじ知能がある分、俺に絶対に勝てないと理解したのだろう。彼らにも生活があったのかもしれないが、これは生死をかけたいわば戦争なのだ。致し方ないと割り切ってもらうしかない。


ホブゴブリンを倒したところでカウントがゼロに近づいていく。いよいよ運命の時間だ。伊織達はどれだけの生徒を今逃がせているのだろうか。全て終わるのができるだけ早いことを切に願う。


5 4 3 2 1 0


カウントがゼロになると最初にゴブリンが出現したときと同じように空間に一際大きな亀裂が入る。その大きさは俺の背丈の約三倍程だ。それに合わせて周囲にも次々と亀裂が現れた。


またゴブリンが増えるのか。やっぱりボスには取り巻きが不可欠だよな。薄々わかってはいたがまさか本当にそうなるとは厄介極まりない。


俺はひび割れていく空間を前にして冷や汗を垂らすのだった。






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