第22話 正義とは

「戦場っ!お前っ!」


突然クラスの陽キャイケメン枠の天堂に胸ぐらを掴まれる俺。急になんなんだ?後ろにいる天堂の取り巻き共も同様に怒りの表情を浮かべている。そのまた後ろには焦った凍堂がいる。凍堂は被害者達を連れて行ったはず....あ〜なんとなく話が見えてきたぞ。もし俺の予想が合ってるなら厄介なことになりそうだ。


「急になんの用だ?」


一旦しらばっくれる。


「とぼけるな!お前.....人を殺したのか!?」


やっぱりその事か。大方助けた奴らの中にコイツの友達だか知り合いだかがいてソイツが天堂に話したんだろう。まあ口止めとかしてないし責めるつもりはないが。


「そうよ!どういうこと!?」


後から神崎がそれに続いて噛み付くように問いかけてくる。はあ......面倒くさい。


「落ち着け、二人とも。天堂くんも手を離すんだ」


そこで伊織が二人を宥める。正直ありがたい。


「で、でも!」


「離すんだ」


なおも食い下がる天堂に伊織が軽く殺気まがいのものを向ける。その圧に耐えられなかったのか天堂はパッと俺の襟から手を離した。結構場数は踏んでるはずなのにこれに耐えられなかったのか?ああいや、伊織の方がレベルが高いのか。


「蓮。天堂くんの言っていることは本当なのか?」


二人が落ち着いてから伊織が俺に尋ねる。誤魔化してもどうにもならない。ここは本当のことを言っておくか。


「ああ。俺が梶木達を殺した。それは紛れもない事実だ。凍堂と青海に聞いても同じ答えが返ってくると思うぜ」


「なっ!悪びれもせず......!」


「静かにしろ。何故だ?蓮」


またもや興奮し始めた天堂を黙らせ、伊織が再び俺に問う。その眼差しは先程までとは違い、厳しさを含んだものだ。それもそうか、自分の幼馴染が殺人を犯したんだ。胸中穏やかではいられないだろう。


「ソイツらが救いようのないクズだったからだよ。梶木から受けた仕打ちは俺達が連れてきた奴らに聞いただろう?」


「だからって!人を殺していい理由にはならないだろ!」


即座に天堂が反論する。


「ならお前は自分が殺されそうになっても同じことが言えるのか?お前の友人......そうだな神崎あたりがレイプされそうになっても同じことが言えるのかよ?」


「えっ!?」


神崎が俺の言葉に嫌悪感をあらわにする。引き合いに出したのは申し訳ないが俺も段々腹が立ってきた。のうのうと——生まれ持った身体能力を傘に着て、本当の意味での命の危機に会ったこともない奴に何故こうも言われなくちゃならない?


「そ、それでも俺は殺さない!」


「そうだよ。勇樹がそんなことするわけないじゃん。あんたと一緒にしないでよ」


今まで一言も発していなかった天院が口を挟む。


「違います!先輩は悪くありません!」


すると凍堂も割り込んでくる。他学年である俺達に意見を言うのは緊張しただろうに。感謝の念しか浮かばないとはこのことだ。まあ凍堂が言うんだ。流石に信じるだろう。


「君は戦場に騙されてるんだ!」


俺の期待は悪い意味で裏切られた。コイツ.....どこまでお花畑な脳内なんだ?


「私はいつでも私の意思で動いてます!現場も見たことのない人がとやかく言わないでください!」


「ねえ。勇樹が心配してくれてるのにその言い方はないんじゃないの?」


「なっ!あれが心配ですか!?ちゃんちゃらおかしいですよ!」


負けじと凍堂が天院に言い返す。よくやった、と褒めてやりたいところだがその前に。


「少し黙れよ、天院。凍堂を巻き込むな」


「はぁ!?あんたごときがあたしに指図しないでくれる!?」


ああ、やっぱり俺はコイツらが嫌いだ。陽キャが陰キャかという尺度ではない。単純に人間性が俺と合わない。何故自分が遭遇したこともない場面について言い切れるのか、天堂だから?そんなものは理由になっていない。天堂に恋をしているのかどうかは知らんが論理的な思考もできていない。そんな奴をどうして好きになれるよ?


「天堂、天院。余計なことを言うな。お前達は蓮が人を殺したことを責めているのか?それとも死んだ人間のために怒っているのか?」


俺が内心で天堂一派に対する怒りを煮えたぎらせていると伊織が今度は天堂に問いかける。


「それは勿論死んだ人のことを思って....!」


「ならば今すぐその考えは捨てろ」


「なんでですか!?人を殺すことが正義だと!?」


「違う!本当に人のことを思うのなら蓮を責めるより前にまず被害者を慮るべきではないのか?私から見れば君はただ蓮を責めたいようにしか見えない」


伊織の言っていることはまさに正論だな。そういえば天堂は伊織のことが好きなんだったか?本人は隠せていると思っているようだがクラスの人間なら誰でも知っている。気づいていないのは本人と伊織ぐらいのものだ。


だからか、天堂は顔を真っ赤にして叫ぶ。


「戦場!俺と戦え!」


「は?」


おっと、素で何を言っているのか分からなかった。なんで?俺がお前と?てかどうやったらその結論に至るんだ?まさか俺と戦って勝つことで伊織の印象を挽回しようとでもしてんのか?


そんなイカれた思考回路の天堂が腰に挿していた剣を抜く。神崎や天院、明神の誰もそれを止める素振りを見せない。


「待て!天堂!そんなことは私が許さないぞ!」


まあ当然伊織はそれを止める。避難所である体育館で武器を抜くなんて正気の沙汰ではない。


「止めないでください。会長。俺はどうしてもコイツが許せないんです!」


が、まったく敵意を収めない天堂。あーあ、これが最後通告だったのに。


「構わないよ、会長。天堂....お前、剣を抜いたからには無傷で帰れると思うなよ?」


「おい!蓮、お前まで.......」


俺は【空間収納ストレージ】からいつものように「純黒」を取り出し、伊織の言葉を無視して天堂を煽る。


「来いよ。ビビってんのか?」


「っ!そんなわけ...!」


少し殺気を当てただけでこれか。負けるビジョンが思い浮かばない。


「はあぁぁぁぁっ!」


天堂が斬りかかってくる。思いきりそれに短剣を当てて天堂ごと吹き飛ばした。天堂は目を見開いて俺の膂力に驚嘆しているようだ。こんなことをしたのは俺と天堂の力の差を思い知らせるためであり、いつもなら絶対にやらない。


だがこれでも天堂はやる気を失っていなかった。今度は同時に走り出し、お互いの剣がぶつかる——


ピロン!


瞬間、その場にいた全員の目の前に半透明の板が出現したのだった。


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