第21話 再会と諍いと

ホブゴブリン三体を全て倒し、俺は昔からの幼馴染である伊織と再会した。


「久しぶり、蓮」


「ああ。会長も大丈夫だったか?」


「勿論だ!また会えて嬉しいよ」


再会が嬉しいのは俺も同じだ。


「さっき負けそうになってたのにか?ま、俺も会えて良かったよ」


再会を喜ぶのはここまでだ。ホブゴブリンが叫んだせいで他のモンスターがやって来るかもしれない。対処できないことはないが、そんな面倒を避けるためにも早く体育館に避難したほうがいいだろう。


「凍堂!もう出てきても大丈夫だ!」


校舎に隠れさせていた凍堂と青海、そして梶木に囚われていた生徒を呼ぶ。誰も欠けていないようだ。


「彼らについては体育館の中で話す。とりあえず早く行こう」


伊織に断りをいれ、俺たちは体育館に向かった。




「凍堂、青海。この人達を連れて行ってやってくれ。生徒会の生徒に着いて行けばいいから」


「それはいいですけど、先輩はどうするんですか?」


「俺は会長と他の場所を見て来る。それに俺がいると彼らもくつろげないだろ」


「わかったわ。そのあとはどうすればいいかしら?」


それには青海が返事をする。


「友達を探すもよし、俺のところに戻って来るのもよし、だ。凍堂......あまりうろつくなよ」


青海や他の人の前で凍堂の問題......友人による裏切りを話すほどデリカシーがないわけじゃない。しかし、ここでその裏切り者に会ってもメリットはない。最悪、凍堂が悪人にされる可能性だってある。


青海に指示を、凍堂に忠告をして俺は二人から離れて伊織の所に行った。


体育館内は大勢の生徒、先生で埋め尽くされていた。中には負傷している者もいる。おそらく体育館に到着するまでにモンスターに襲われ、抵抗することができなかったのだろう。もしくは外に出てモンスターにやられたのか。それだけではない。酷く憔悴している生徒もいる。誰か友人を亡くしたか、それとも彼女、彼氏を失ったのか、それは俺にも分からないが、惨憺たる有様だと言える。


だがこれでも伊織は善戦している方だ。最悪の場合やけになって暴動が起こってもおかしくない。それを抑えられているだけ伊織は頑張っている。それに、傷ついているのは彼らだけではない。


「......酷い有様だろう?モンスターを倒すことはできる。物資を確保することも。それでも亡くなった人を生き返らせることはできない」


伊織が他人に弱音を吐くのは珍しい。他に誰もいないからだろうか。


「別に伊織のせいじゃないだろ。お前にも、誰にもコイツらの面倒を見る責任はないんだから」


酷な言い方にはなるが、結局この世は個人主義なんだ。自分の身に起きたことは自分の責任だし、それは自分で解決しなければならない。それがこんな世の中ならまさにそうだ。誰も自分を助けてくれる人などいない。自分のことは自分でやるしかないのだ。


「いや、あるよ。責任ならある。私は生徒会長で、ここは学校内なんだ」


「そんなものは詭弁だろ。すでにここは学校としての役割を果たしていないんだ。生徒会長なんて役職も最早ないに等しい」


ここ、学校は無法地帯と同様だ。だからこそ俺が殺人を犯したとしてもなんのペナルティもなく過ごせている。生徒会長なんて肩書きはもう意味がないんだ。


「.....君ならそう言うと思っていたよ」


「昔から意見が合ったためしが無いだろ」


俺達は昔から意見が全く合わなかった。マヨネーズ派かドレッシング派かにしろ、犬派か猫派かにしろ喧嘩になるほど合わない。ちなみに俺はマヨネーズ派で猫派だ。


「ふふ。だからかな。君と話していると元気が出るよ。話を聞いてくれてありがとう」


そう言って伊織は微笑む。不覚にも綺麗だと思ってしまった。彼女が美少女、いや美人なのはわかりきったことだがなにか悔しいものがある。


「......俺はお前の精神安定剤じゃないぞ」


「分かってるさ。それで?君が連れてきた生徒達はどうしたんだい?」


そうだ。本題はアイツらについてだった。


「二年の梶木って知ってるか?」


「無論だ。私は全校生徒の顔と名前を暗記しているからな。確か素行が悪いのでなんとかしてくれと先生方も言っていた。学年が違うので中々矯正する機会がなくてな。....そいつか?」


全校生徒暗記してるって.....よくやるなあ。俺だったら絶対やんねえぞ。てか教師が生徒に助けを求めるとかどうなんだよ?


「流石。そいつで合ってるよ」


「で、その梶木がどうしたんだ?」


「彼らは梶木に捕らえられていた生徒達だ。暴力を振られていた生徒が大半だな。それに、中には死亡した生徒もいる」


具体的に何人かは知らないが捕まっていた生徒に聞いたところ、三年の男子生徒が一人自殺に追い込まれたらしい。その話によると性暴力を受けた生徒もいたようだが、女性にする話ではない。それにもう起こったことだ。今更知ってもどうにもならない。


「なっ!?そこまで......」


伊織が奥歯を噛み締める音がする。彼女の言う「生徒会長」という立場から言えば悔しいだろう。なにせ守るべき対象が傷つけられるのみならずその命を奪われたのだから。


「.......それでソイツらはどうなった?」


怒りを押し隠すように伊織が尋ねる。


「梶木達なら俺が——


「戦場!お前っ!」


俺が殺した、と言おうとした瞬間、やってきた天堂に胸ぐらを掴まれる。話し込んでいたので近づいて来ているのに気づかなかった。後ろにはおろおろとしている凍堂と、天堂と同じように怒りをあらわにした神崎達が立っている。


なんだ?コイツは。




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