第20話 介入
戦闘が勃発しているのは体育館前の扉だ。青海に後ろの見張りを頼み、俺は戦闘を観察する。
数体のホブゴブリンとゴブリンの群れが中にいる生徒達を目指して侵攻して来たのだろう。匂いか何かを嗅ぎつけたのだろうか。戦闘に介入するかどうかを悩んでいると、その中に見知った顔を見つける。
「ん?あそこで戦ってるのって.....」
「会長、ですね......」
後の言葉を凍堂が引き継ぐ。刀を振り回してゴブリンを薙ぎ倒しているのはまさに生徒会長の伊織だった。いるとは思っていたが本人が最前線に出ているとは....。だからあの人は他人に信頼されるんだろうな。
「危なくなったら助けるけどそれまでは待機で」
「はい。わかりました」
それと助けるかどうかはまた別の話だ。ゴブリン共に気づかれないよう小声でやりとりをする。
「でも.......いいんですかね?」
「こっちには足手まといが何人もいるんだ。俺達があっちに行ってる間に彼らが襲われたら対処できない」
凍堂もちゃんと意見を言うようになってきて何より何より。でも助けに行くのは浅はかだと言わざるを得ない。俺達の今の任務は後ろにいる彼らを体育館に届けることだ。
「会長は剣術の有段者だぞ?心配しなくても大丈夫だよ」
それに見たところ天堂達もいるようだしな。不安なのは他の生徒を庇わないかどうかだ。伊織は情に厚いからな.....そうなったら流石に目も当てられん。
ホブゴブリンと戦うのは初めてなのか、どこか動きがぎこちない。剣道だろうと武術だろうと自分より数十センチもでかい相手と戦うことは無いだろうから対応がし辛いのだろう。ゴブリンは全て倒せたようだが、目に見えて苦戦し始めた。単純なステータス差が伊織と天堂の前に立ちはだかっている。
「ぐあぁぁっ!」
伊織と天堂ではホブゴブリンを抑えきれず、遂に一人の男子生徒が怪我を負った。ここからでは詳しく分からないが、血の量から判断してかなりの重傷だ。それにパニックを起こして他の生徒も戦意を失い始めている。
「ここらが潮時だな」
伊織だけなら生き残れるだろうが彼女は他の生徒を見捨てはしない。
「俺が行くから二人でこの人達の安全を確保しておいてくれ」
「わかりました」
「了解よ」
二人からの返事を確認し、俺はホブゴブリン目掛けてナイフを投げつけた。
「!?」
伊織達が驚きの声を漏らす。投げたナイフはホブゴブリンの目に突き刺さり、奴の視界を奪う。パニック状態の生徒が多いのでまずは彼らの安全を確保しなければならない。数は三体。さっきのも三体だったな.....スリーマンセルで行動するのか?
【
「会長。後ろの人達を避難させてください」
振り向いて伊織に話しかける。別に名前で呼んでもいいが他にも人がいるのでやっぱり嫌だ。
「蓮!?どこから......」
「今はそんなこと話してる場合じゃない。早くしてくれ」
敬語が一瞬で外れる。まあ仕方ないだろう。俺は悪くない。
「ああ!お前はどうするんだ?」
「俺はコイツら始末してから行く」
目を刺されたホブゴブリンがこちらに向かってくるのが見える。目をやられたことに激昂して正常な判断ができなくなっているのだ。もう一体はこちらの様子を伺っている。ホブゴブリンにも性格の差があるらしい。こういうとこが人間っぽいんだよな。
足に魔力を込めて【疾駆】を発動させる。今のステータスとこのスキルを合わせればホブゴブリン程度では俺の姿を捉えることはできない。ましてや片目では不可能だ。俺を見失ったホブゴブリンは手当たり次第に剣を振り回して周囲を破壊し始めた。ゴブリンにしては悪くない手だが、大振りすぎて隙だらけだ。
懐に入り込み、心臓をひと突き。それだけでホブゴブリンの身体からは力が抜けていく。【弱点看破】さえあれば動いている相手の急所を的確に攻撃するなど朝飯前だ。
最後のホブゴブリンは........。どうやら俺には敵わないと思ったのか、俺に背中を向けて一目散に逃げていく。賢い選択だな。だが—
「逃がすと思ったか?」
新しく取得した【影操】を使って逃げたホブゴブリンの影を操りその足を固定する。更に
【疾駆】【身体強化 II】を使って追いつき、短剣を振ってバラバラに切り裂く。前よりも更に強化されたステータスにより、ホブゴブリンの身体なら両断できるほどには筋力値が上がっていた。
ピロン!
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レベルが上がりました!
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よしよし。レベル上げも順調だ。そういえば今の俺はどのくらいの強さなのだろうか。日本、いや世界的に見て俺はどこまで戦えるか、それが知りたいが確かめる術がない。敵はモンスターだけではなく人間も。それは食堂のときに痛感した。なればこそモンスターとの戦闘だけではなく人間との戦力差も知っておきたいものだ。それを確かめるには外に行く必要があるな....。
「蓮!無事か!?」
その時伊織から声がかかり、思考を中断する。生徒達を流すのは他の生徒会役員に任せて本人は残っていたようだ。
「無事ですよ、会長。ほら、怪我の一つもしてません」
手を振って答える。そう言うと伊織は嬉しそうにほっと息を吐き出した。
まあ、何はともあれ俺は幼馴染との再会を果たしたのだった。
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蓮が投げたナイフは食堂のときの不良が持っていたものです。再活用!
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