第14話 暗殺者

時は少し遡り、凍堂がゴブリン達の相手をし始めた頃。


凍堂が通常のゴブリンを請け負ってくれたおかげで余計なことを考えなくて良くなった。あの数の非戦闘員を守りながらホブゴブリンと戦うのは俺としても本意ではない。凍堂のことも心配だし速く終わらせてしまいたい。


そう考えながらホブゴブリンの攻撃を避け続ける。腕力は俺よりも高く、身体がでかい分リーチも長い。スピードでは俺が勝っている。しかしコイツの皮膚は思ったより硬く、【小鬼殺し】を持っている俺でも浅い傷しかつけることができない。手に持っている長剣のせいで元々長いリーチが更に伸び、迂闊に近づくことも不可能。


でもやりようはある。


攻撃そのものは遅く、単調なものばかりなので避けるのに支障はない。むしろ当たるほうが難しい。避けながら攻撃、なんてちまちましたことはやらない。まあホブゴブリンもモンスターとはいえ生き物だから出血多量という概念はあるだろうが時間がかかりすぎる。「純黒」の腐食効果もあの巨体じゃあまり効力は見込めないしな。


攻撃を避け、相手に隙ができたところを一撃で殺す、それが暗殺者アサシンのコンセプトだ。


避ける、避ける、避け続ける。攻撃が荒くなってきた。イライラしている証拠だ。所詮はモンスターだ。忍耐なんて文字は知らないだろう。


来た!大振りの縦切り!これを待っていた。この動作の前後が大きい動きを!


そのタイミングで【疾駆】を発動しようとしたが、凍堂に向かって後ろからゴブリンが迫っているのが視界に入る。


周囲を見渡すと先程の不良が使っていたナイフが目に付いた。それを拾って今にも殺されそうな凍堂に投げつける。暗殺者アサシンの付属効果なのかナイフなら百発百中だ。怯んだところを凍堂が魔法を使い、ゴブリンを殺すことに成功した。


が、それに集中するあまり横からくるゴブリンの剣に俺は直前まで気づくことが出来なかった。





そして俺はゴブリンに吹っ飛ばされた。


「先輩っ!!」


不良の火球とは比にならないほどの衝撃が身体にかかる。俺の身体は呆気なく飛び、食堂の壁をぶち抜いた。


「先輩!!大丈夫ですか!?」


「俺は大丈夫だ。しかし痛ってえ....」


ギリギリで短剣を剣と身体の間に割り込ませることに成功した。少しでも遅れていたら今頃俺の身体は真っ二つになって、ホラー映画も真っ青な18禁スプラッタが食堂で展開されていたことだろう。


それでも受けた衝撃はそのまま伝わってくる。咄嗟のことだったので衝撃を殺すことも出来ず、もろに受けてしまった。そのせいで右手が震えている。


「馬鹿力が....!」


いや、今のは戦闘中に他のことに気を取られたのが悪い。助けないという選択肢が正解だったわけではないが、俺ならもっと上手くやれたはずだ。ここは反省だな。


ま、反省はここまでにしてアイツを殺すことに専念するか。


腰を落とし、【短剣術】スキルが教える通りに「純黒」を構える。ホブゴブリンもまた、巨大な長剣を構えて臨戦態勢に入った。


自然と口角が吊り上がる。この緊張感が心地いい。


そして勝負は一瞬で着いた。


まず、【疾駆】の他に【身体強化】や魔力を使い瞬時にホブゴブリンの足元に接近して足の腱を斬る。ホブゴブリンが膝をつき、態勢が低くなった。そして背後に回り込み、その太い首を貫いた。


【弱点看破】を使い急所を確認したが、基本モンスターの身体、特にゴブリンなどは人間とあまり変わらない。首を切れば死ぬし、心臓部分を潰されれば生き絶える。今回は心臓部分を探すのが手間だったので首を斬ることにした。


どさり、と音を立ててホブゴブリンが倒れる。


ピロン!


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レベルが上がりました!


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また一つレベルが上がる音が聞こえる。戦闘中は役に立たなかったが【小鬼殺し】様々だな。


「ありがとうございました!」


凍堂がやってきて頭を下げる。


「あんなこと言ったのに結局先輩に助けられて......」


凍堂の表情が陰る。自分で戦えると言ったのに俺に助けられたことを余程気にしているのだろう。


「別にそんな気にすることじゃない。俺は先輩なんだろ?後輩を助けるのが仕事だ」


当然の理論だな。


「それに.....俺も少し過保護すぎた。お前のことを保護対象としてしか見ていなかった。すまない」


「そ、それはしょうがないですよ!だって私はあくまで先輩に助けられた人間ですから。先輩が謝ることありません!」


焦ったように手を振り回して凍堂が主張する。


「じゃあお互い様ってことで」


「はい!」


にこりと凍堂が満面の笑顔を見せる。綺麗だな.....。そんな感想が頭に浮かぶ。まあこれを言ったら今しがた確かめ合った先輩後輩の絆が壊れてしまうので口には出さないが。


「きゃっ!」


魔力を使いすぎた影響か、足元がおぼつかない凍堂が瓦礫につまずく。


それを咄嗟に抱き止める。ほぼ反射だな。てか顔が近いな......。まつげが数えられそうだ。


「大丈夫か?怪我とか.....」


心配になったので怪我の有無を尋ねる。見たところ外傷はそこまで大きなのがないが一応心配になるというものだ。かわいい後輩だしな!


「はひっ!ら、らいじょうぶれす!」


?なんだ?俺の顔を見た途端真っ赤になって離れていってしまった。え?俺.....嫌われてる?


とまあ一悶着あったが無事にホブゴブリンを倒すことができた。


問題はこの不良に囚われていた人達をどうするか、だが.....天堂達は今頃どうしているのだろうか?










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次回、天堂サイドです!


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