第15話 side天堂①

蓮が去った後の教室内。


突如として勧告されたモンスターの出現に教室内は静まり返っていた。そんな中、真っ先に声を上げる者が1人。


「皆!今の声聞こえた?」


天堂 勇樹だ。いつもクラスの中心にいる彼は即座に情報を求めた。冗談と一蹴するのは簡単だが、もしものことがあると天堂はよく理解していた。


「お、俺は聞こえた.....」


「私も!」


「俺も聞こえた!」


天堂の呼びかけにクラスの全員、いや蓮を除く全員が答える。


「桜花達はどう?聞こえた?」


自分の隣にいる彼女らに問いかける。


「うん。私は聞こえたよ」


「私も聞こえたわ」


「うちも聞こえた〜」


上から神崎、明神、天院の順だ。天堂に愛想を振り撒きながら3人が答える。


(クラスの皆に聞こえている......本当に冗談かな?)


そうこう考えているうちに「世界の意思」によるカウントダウンは減っていく。


そして遂にそれが0になった。


クラス内の生徒全員が、何も起こらないと思っただろう。しかし、空間に亀裂が入る。人智を超えた光景に誰も声を発することができていない。そして亀裂からゴブリンが現れ、近くにいた男子生徒を殴りつけた。


「きゃあああぁぁぁぁ!!」


「うわあぁぁぁ!!」


一拍遅れて生徒が叫び、逃げ始める。教室内に現れたゴブリンは三体。それだけでも今まで戦ったこともない一般生徒には荷が重い。


「桜花、凛、皆を避難させて!」


襲われそうになっている人を見ると、止まっていられないのが天堂という男の性分だ。


「ちょ、ちょっと!?勇樹はどうするのよ!」


「僕はアイツをどうにかする!」


そう言って天堂は走り出す。生徒に馬乗りになって、棍棒を振り下ろそうとしているゴブリンに思い切り拳を打ちつける。狙っていた通り拳はゴブリンの頭を砕き、それを絶命させた。


(っ!仕方ないとはいえ生き物を....)


ピロン!


_________________________________________


経験値を手に入れました!レベルが2に上がりました。SPを20獲得しました!特典が付与されます![スキルガチャ][武器ガチャ]が解放されました。ガチャチケットを二枚ずつ手に入れました。


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ゴブリンを倒したことにより、天堂の脳内にシステム音が響く。


(なんだこれ!?でも今はそれよりアイツを倒さなきゃ!)


レベルアップよりも、人命救助を優先して次のゴブリンに突っ込んでいく。


ゴブリンもその頃には天堂を敵として認識していた。二体は、他の生徒を襲うのをやめて天堂に向き直る。


対する天堂はなんらかの武術の構えをとり、ゴブリンに相対する。


左右からくる棍棒を避け、蹴りを繰り出した。それによって一体を始末し、仲間がやられたのを見て逃げ出そうとしたもう一体を殴りつける。


実のところ、ゴブリンはきちんとした身体能力がある人間にとってさほど脅威ではない。体格は人間よりも小さい上、そこまで筋力もない。ゴブリンの強みは数の多さにある。だが、出現したばかりで仲間も少ない状態ではまったくもって雑魚でしかないのだ。


(なんだ?いつもより力が出たような.....)


と、自身のレベルアップについて疑問を感じていると後ろから誰かに抱きつかれる。


「うわっ!びっくりしたぁ!」


「大丈夫!?勇樹!一人で立ち向かうなんて無茶だよ!」


抱きついたのは神崎だった。昔からの幼馴染なので抱きつかれることに抵抗はない。むしろかなり美人の神崎に抱きつかれるのは天堂にとって役得だ。


「俺は大丈夫だよ。まさか爺ちゃんから習った古武術がこんなところで役立つとはね」


天堂の実家は道場を営んでいる。かなり古くからあるそうだが、今はもう門下生は一人もいない、寂れた道場だ。嫌々ながらも、祖父に才能があると言われて指導を受けていた。


「まったく....無茶はしないでください!貴方が怪我をしてしまったら悲しむ子がいるのですよ!?」


今度は明神に声をかけられる。


「わ、わかってるよ。でも見過ごせないだろ?」


「それはそうですが.....」


天堂が心配なのは確かだが、彼が困っている人を見過ごせないのはよく知っていた。ゆえに天堂を責めることはできない。


「勇樹ー!皆無事だったよー!」


最後にやってくるのは天院。走ってこちらにやってくる姿は、天院の圧倒的な胸部装甲が際立っている。これにはさしもの天堂も目が釘付けだ。


「あ、ああ。ありがとう」


「うち頑張ったんだよー!だ・か・らーなんかご褒美ちょうだいっ!」


「ご褒美?俺にできることなら別にいいけど」


きょとんとした顔で天堂がそれを承諾する。しかしそれを残りの二人が黙っているはずもなく。


「ま、待ってよ乃々ちゃん!私だって協力したでしょ!?」


「なら私もです!」


連鎖するご褒美の催促に天堂は困り顔をして話を遮る。


「ま、まあそれは後でね。今はとりあえず安全な場所に向かおう」


自分を慕ってくれる彼女達と話しているうちに天堂は生き物を殺した不快感を忘れていった。









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ちょっと短いですね。すいません。次回も天堂サイドです!

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