第13話 ホブゴブリン
緑色の肌はゴブリンと同じ。しかし、体長が大きく違う。装備もゴブリンのような粗末なものではなく、殺すことを目的とした武器だ。
「さしずめホブゴブリンってとこか」
相対しただけでもこれまでのモンスターとは段違いの実力を持っていると分かる。対してこちらには凍堂を含めた足手まといが9人。護り抜けるか....?ま、やるしかないか。
「凍堂。後ろの人達を連れて下がってろ。コイツは俺がやる」
凍堂に指示を出し、俺はホブゴブリンと向き合う。一体なら余裕を持って戦えるはずだ。短剣を握る手に力を込める。
先に動いたのはホブゴブリン。単純な横切りだが——
速い!
のけぞって避けるも、眼前を剣が通りすぎる。少し舐めていたな。想像よりも全然速い。通常のゴブリンの三倍以上の速さはあると見える。
意識を切り替え、ホブゴブリンの足を斬りつける。.......浅いな。「純黒」でもこの程度のダメージしか与えられないか。俺の筋力ステータスがそこまで高くないのも影響しているかもしれない。
攻撃事態は単調なものばかりなので気をつけていれば俺の速度なら当たることはない。縦切り、横切り、逆袈裟。予備動作も大きいので次の攻撃を予測するのも簡単だ。それでも図体が人間とは違うので、当たれば即死は免れない。いや、俺の防御ステータスならなんとかなるか?コイツにそこまでの危険を冒す価値はないな。
そう判断し、ホブゴブリンの首に狙いを定めた時【察知】に他の反応を感知する。
「クソ.....まずいな」
それはホブゴブリンに従っているゴブリンの群れだった。ホブゴブリンは恐らくゴブリンの上位種!引き連れている可能性を何故考えなかった!?このままでは凍堂を護りきれない!
「凍堂!ゴブリンが来てる!速く逃げろ!」
「ダメです!この人達が.....!」
「お前じゃあの数には敵わない!死ぬつもりか!?」
そう、凍堂ではあの数のゴブリンにはまだ敵わない。魔法は広域殲滅に向いていると解釈したが、それはある程度魔法が使えるようになってからの話だ。具体的に言うならば恐らく中級魔法を覚えなければ対応は不可能。今の凍堂には荷が重い。
「違います!でも見捨てることなんて出来ません!私も戦います!」
どうする?どうしたら犠牲なしで終わることができる?俺は凍堂の顔を見る。その目を見て頭を殴られたような衝撃を受けた。
「........わかった。死ぬなよ凍堂」
「はい!」
凍堂が他の生徒達を守るように立つ。
これでいい、これでいいんだ。俺が上から指示を出す必要なんて無かった。俺はアイツの保護者じゃない。決断したのは凍堂だ。それを覆そうとするなんて俺は何様のつもりだ?護るなんてのも烏滸がましい。アイツはもう既に覚悟している。自分が自分の決断で命を落とすことを。初めてゴブリンを殺した時からアイツは決意していたんだ。
「それを邪魔するのは俺の本意じゃない」
俺はただ眼前の敵を倒すために足掻けばいい。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
目の前にいるのは無数のゴブリン達。先輩が戦っている大きなゴブリンが引き連れて来たものだ。我儘を言ってしまった自覚はある。今まで先輩に守られてきた自覚もある。でもこれだけは譲れなかった。助けられる人は助けたいから。先輩がさっき人を殺してしまったのには驚いたけれど、それだけで彼の評価が変わるはずもない。
少しでも先輩の助けになりたい。先輩が私の命を助けてくれたように私も先輩を助けたい。
「ギャアァァ!」
ゴブリンが走ってくる。本当は怖い。今すぐ逃げ出したいくらいに。でもここで引いたら終わりだから!
「《水弾》!」
私の周りに幾つかな水球が出現する。さっき先輩を攻撃した火球の水番だ。それが一斉にゴブリンに向かって射出されていく。水魔法はあまりスピードが速くはない。でも攻撃範囲は広いから当てやすい魔法だと先輩が言っていた。
先頭のゴブリン達に水球が直撃し、ゴブリンの身体が弾け飛ぶ。休まずに次の水球を展開し、次々に出てくるゴブリンを倒していく。私には【詠唱破棄】があるのですぐに魔法を使うことができる。
それだけではなく「ミスティルテインの杖剣」でゴブリンを斬る。私は先輩に教わった通りに近接戦闘もできるようになっていた。それに加えて【杖術】で基礎力が底上げされているから私でもゴブリン程度なら相手をできている。それでもやっぱり数が多い!
「っ!」
いつまにか後ろに周りこまれていたゴブリンに背中を殴られる。痛い。痛いけど、死ぬよりは全然まし。負けじとそのゴブリンを杖剣で切り裂く。
「はあ....はあ....」
息が切れ始める。普段から運動しておけば良かった!身体から力が抜けていって段々と魔力が減っていくのが分かる。気分も悪い。
集中力が乱れてくる。ゴブリンを倒したあと、目の前に棍棒が迫っているのが見えた。このままじゃ避けられない。頭に当たる——
「しまっ.....!」
その棍棒が私に当たることは無かった。先輩が食堂にいた生徒がガチャで出したであろうナイフを投げて弾いてくれたのだ。
私はその隙に態勢を立て直し、残りのゴブリンに魔法を放つ。
「《水球》!!」
《水球》によって大きなゴブリンが引き連れてきたゴブリンは全員倒すことができた。でも先輩がいなければ私は死んでいた。
お礼を言うために振り向いた私の目に写ったのは大きなゴブリンに殴り飛ばされる先輩の姿だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます