第12話 はじめての
「お前今なんて言った?」
身体中から魔力が放出される。怒りのせいか抑えることができない。いや、抑えようとも思わない。
「女は置いてけって言ったんだよ。聞こえなかったのか?」
コイツは何を言っている?凍堂を置いて行けだと?話にならない。すでに凍堂は俺の中で「護るべき人間」に区別されている。その上舐められているというのが思いの外癪に触る。
「断る。さっさとどけ」
「はっ!断るんなら仕方ねえ.....殺れ」
直後、前方から飛んでくる炎の弾。咄嗟のことに俺は反応することが出来なかった。その結果、吹き飛んで食堂の壁に激突する。そこまで熱くもない.....でも怪我はしているみたいだ。魔法か.....まさか本当に使ってくるとは。心のどこかで期待していた。本当に俺を殺そうとはしないだろうと。せいぜい脅しが精一杯であれと。
「ギャハハハハハ!!調子に乗るからそうなるんだよ!」
「あの女、俺にも味見させてくださいよ!」
下卑た会話が聞こえる。あの火球は頭を狙って飛んできていた。そうか、俺は今殺されかけたんだよな?なら——
「先輩!大丈夫ですか!?」
俺はゆらりと立ち上がる。その目はじっと奥にいる梶木を捉えたままだ。凍堂の呼びかけに応えることはしない。俺が今からやることは決して褒められたことではないのだ。
「まだ生きてんじゃねえか。さっさと始末しろ」
「は、はい!《火球》!」
先程と同じように火球が俺目掛けて飛来する。それを避け、魔法を行使した生徒の首を斬り落とす。
「え?」
間抜けな断末魔を漏らし、その生徒の首がずり落ちる。モンスターを簡単に両断できるこの短剣が人の首を切れない理由がない。
ピロン!
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レベルが上がりました!
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脳内でシステム音が鳴る。なるほど、人を殺しても経験値は得られるのか。これからは人を積極的に殺す奴が出てくるだろう。コイツらのように。人を殺す方がモンスターを殺すよりも簡単なのだから。
場は静寂に包まれた。
分かっていたことだ。敵はモンスターだけじゃない。法と秩序が無くなったこの世界でタガが外れた人間もまた敵になり得る。
今、俺は人を殺した。仕方なく、じゃない。この世界に強要されたわけでもない。俺が俺自身の判断で殺した。なのに思考はクリアだ。身体もいつもより上手く動いている気がする。
「俺を殺そうとしたんだ。殺されても文句は言えないよな?」
まだ敵が残っている。止まるわけにはいかない。
呆然としているうちに俺と凍堂を取り囲んでいた生徒を斬りつける。【弱点看破】を発動して的確に人体の急所を突いていく。それが不可能な相手には、魔力を込めた「純黒」で斬る。すると、相手の傷は腐食していきその生徒は絶命していく。
魔力を動かす練習で獲得した【魔力操作】を使い、「純黒」に魔力を込めると腐食効果があるのだ。発動した腐食効果は、じわじわと広がっていく。人間、しかも俺よりレベルが低い相手が抵抗できるはずもない。
「ガアァッ!」
「うわぁぁ!!」
「腕がっ!!腕がぁぁ!」
「
「なっ!こいつらは全員レベル5を超えているんだぞ!?なのになんで...っ!」
「それをお前が知る必要はあるか?」
「純黒」の切先を向けただけで梶木が後ずさる。まさか怯えているのか?今まで多くの人の尊厳を奪ってきたお前が?
「うおぉぉぉぉ!」
自身の怯えを消すように叫びながら、梶木が俺に殴りかかってくる。手にはガチャで出したのであろう手甲がはめられており、当たれば俺でもただではすまない。そもそもレベル差があるのに俺に梶木の攻撃が当たるはずがないが。
「クソッ!なんで当たんねえんだよ!」
そうして攻撃を避けていると、梶木が何かを思い付いたかのように顔を歪ませた。
すると梶木は横にいる凍堂を狙って拳を振り下ろす。俺が凍堂を庇うことを見越しての行動だろう。凍堂には対応が不可能な速度だ。
「ハハハハハ!」
勝ちを確信して梶木は笑う。が、すでに梶木の両腕は俺によって切断されていた。
「どこまでも見下げ果てた奴だ....」
「ギャアアアアアァァァ!」
なくなったら腕を見て梶木が叫び声を上げる。
「うるせえな。ゴブリンが寄ってくるだろうが」
梶木の顔を蹴って黙らせる。容赦なんざコイツにするつもりはない。
「やめ、やめて、やめてくれ!命だけは!な、なんでもするから!」
俺の足元で梶木が懇願する。最初は高圧的に接していたくせに調子のいい奴だ。まあ.....見逃すつもりもないが。短剣を梶木の首筋に押し当てる。
「ま、待って下さい!」
その時、凍堂からストップが入る。
「ここまでしたなら殺す必要はないんじゃないですか?」
俺は無言で短剣を下ろす。凍堂がほっと息を吐く。梶木は助かったような顔をして俺から離れようとする。
その首が飛ぶ。
俺が殺したのだ。生かす理由がない。
「!?なんで....!」
「逆に聞くけどコイツが二度とこういったことをしない保証は?現にお前も狙われたんだし」
「腕、しかも両腕がないのにどうするって言うんですか!?」
凍堂が俺を責め立てる。
「もしこの先身体の欠損を回復できるほどのスキル、もしくは魔法を使える輩が出てきて梶木を回復させたら?そして梶木が俺達に復讐しようとしたら?」
「そんなこと、分からないじゃないですか!」
「ああ。分からないよ。だが、もしも想定しなければ生き残れない。それにここで生かしておいたとしてもどうせモンスターに食われて死ぬだけだ。ほら、生かしておく理由がない」
淡々と殺した理由を説明していく。確かに凍堂の言っていることは間違っていない。しかしそれは元の世界なら、だ。今の状況では甘い戯言にしかならない。もう反論出来なくなったようだ。
「納得した?なら——っ!?」
バッと食堂の壁を見る。次の瞬間、壁は崩壊し、砕け散る。舞い上がった砂埃が止み、そこには緑色の体色に人よりも巨大な身体。俺が恐れていた事態が起きた。
新たなモンスターが登場したのだ。
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