第11話 食堂

人気の無い廊下を進み、食堂へ向かう。


俺の右手には「純黒」が、凍堂の手には「ミスティルテインの杖剣」が握られている。まだ調べていない所に未知のモンスターがいないとは言い切れない。よって慎重に進むことが要求される。


今のところ、ゴブリンと狼以外のモンスターは目撃していないし、【察知】に引っかかってもいない。まあいないならそれにこしたことはないが。


俺はちらりと凍堂を盗み見る。もし新種のモンスターがいたならば凍堂がいることはマイナス要素にしかならない。責めるつもりはないが、今の凍堂のレベルでは不安が残る。


いざとなったら先に逃がすか.....?いや、一人にさせるのもな....。


「先輩?どうしたんですか?」


「ぬぉっ!」


後ろから脇腹をつつかれる。変な声出たぞ!「ぬぉっ!」ってなんだよ!


「あ、い、いやなんでもない。ちょっと考え事してただけだ」


「もう少しで着きますよ?」


おっと、考え事をしていたらもう食堂が目の前ではないか。  ........?


なんだ?これ。【察知】に反応があるけどモンスターじゃない。人間だな。でも衰弱してる奴がいる。今にも死にそうなくらいだ。


「凍堂、これどう思う?」


「そう......ですね。あまり良い予感はしません」


【察知】を使える凍堂にも意見を求める。


「だよな。俺もそう思う。一応武器は【空間収納ストレージ】にしまっておいて、いつでも取り出せるようにしておく。凍堂は持ってていいよ」


「了解です」


俺が新しく購入したスキル【空間収納ストレージ】。よくファンタジー物であるアイテムボックスと同じ効果で、許容量内の物ならばなんでも収納することができる。食堂にある食料もこれで運び出す予定だ。


食堂にいる相手を刺激しないよう、【空間収納ストレージ】に「純黒」をしまって食堂の扉を開ける。不快な血の匂いが鼻腔をつき、一気に気分が悪くなる。


そこには信じ難い光景が広がっていた。


「っ!?」


顔の原型がわからないほどに腫れている者もいれば、端で折れた腕を押さえて蹲っている生徒もいる。酷いが.......まあ予想通りだな。こんなことだろうと思っていた。


室内にいる、ここから見えないやつを除いた全員を見て戦力を分析する。椅子にされている生徒はかなりの重症だ。すぐに処置しないと死ぬだろうな。後ろに立っている生徒は特に問題はなし。衰弱はしてるけど命に別状はない。


「凍堂。余計なことはするなよ」


隣にいる凍堂に小声で忠告する。そうしなければ彼女が飛び出してしまいそうだったから。面倒ごとは最大限に避ける。これが俺のモットーだ。可哀想だとは思うが、俺にどうにかする義務はない。どうせ助けてもこの先生きていけるとは思えない。それに、ここで手を出せば凍堂にも危険が及ぶ。俺は殴られてもなんともないが凍堂は違う。


「お?ゴブリンじゃねえな。何しに来たんだよ?」


「女子もいるじゃん!ヒュー!」


人間椅子に座っている生徒に話しかけられる。コイツ.....二年の中でも指折りの不良だ。噂になっているのを聞いたことがある。もう一人は知らん。誰だ?ネクタイの色からすると三年だな。取り敢えず無視するか。


「少し食料を分けてもらえないかと思ってな。こっちは食べる物がなくなってしまったんだ」


「あ〜?それならそこの女の子少し貸してよ。そしたら食料も分けてやる」


なんだコイツ。話にならないな。


「ならいい。遠慮する」


短くそう告げる。こんなゴミがいるところに長居する必要はない。


「あぁ?なんだよ俺たちからタダで帰れると——」


「食料はやらねえ。どうしても欲しいってんなら俺らのグループに入るんだな」


見知らぬ三年の言葉の途中で、奥から違う声が割って入る。【察知】で感知した通りこの中で一番強い奴だ。気配がそこらのゴブリンとは段違いだな。そいつが来た途端に2人の不良は焦り始める。


「誰か来たらすぐに俺に知らせろって言ったよな?勝手に何やってんだ?」


「す、すいません。梶木さんぶっッ!」


俺達に話しかけてきた二人が殴り飛ばされた。ありゃ顔の骨折れただろうな。素手で人間を吹き飛ばすとは......筋力ステータスは俺と同じくらいか?


それより梶木、か。天堂と並んでこの学校で有名な人物だな。天堂の奴とは違い、悪い噂が絶えないことで有名な不良だ。本名 梶木かじきげん。他校の生徒を10人病院送りにしただか自分に口ごたえした同級生を屋上から突き落としただの一個下の俺達の間でも恐れられていた。そんな奴がこの世界になって良い子でやってるわけないよなあ。むしろステータスっていう力を手に入れて調子に乗ってるに決まっている。


「仲間じゃないのか?」


一応聞いてみる。


「仲間ぁ?んなわけないだろ。俺の部下だよ。部・下。わかるか?」


頭をトントンとつきながら梶木が話す。挑発されてるな。全然気にならないけど!


部下......ね。なんでこんな奴に従っているんだ?意味がわからない。必要がなくなったらすぐに切り捨てられるのがオチだろうに。


「ふーん。まあいいや。あんたらのグループに入るつもりはないからお暇するよ。行くぞ、凍堂」


あんなふざけた要求を飲むはずがない。何よりアイツに従う気にならない。人を物扱いしている時点で不愉快極まる。梶木に背を向け、食堂の扉から外に出ようとする。


「........なんのつもりだ?」


が、梶木の手下によって道を阻まれてしまう。扉の前に3人、周囲を取り囲むようにして10人か.....。振り返って梶木を睨みつけるも、意に介している様子はない。


「ただで帰すわけねえだろ。女は置いて行け。そしたら命だけは助けてやるよ」


にやにやと笑みを浮かべながら梶木が告げる。そんな奴に俺は——


「あ?」


心底腹が立った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る