第18話 第一話の撮影

 衣装が完成し、さっそく俺たちは次の休みに第一話を撮ることにした。

 マホレンジャー第一話のあらすじはこうだ。


『幼馴染であるカイルとシュルツは、マホレンジャーとして魔物を倒す使命を持っている。しかし二人だけでは多勢に無勢、カイルの持つ魔法石が、力になってくれる仲間を指し示してくれるはずだ。魔法石に導かれて王都にやってきた二人は、ミュリエラ、エヴァンス、オリバーと出会う。じぶんたちがマホレンジャーであることに半信半疑だった三人だが、カイルに促されるままに「変身!」と叫ぶと、それぞれヒーローに変身することができた。協力して魔物を倒した五人は、マホレンジャーとして悪と戦うことを決意するのだった』


「オリバーも決意するの? だいじょぶ?」

「決意、するよな?」

「シュ、シュルツの目がこわい……するよ……何の決意でもいいんだもんね」

「あぁ、なるほど。いいんじゃね? 心の声は聞こえねぇし」


 まずはリューシードと一緒に、俺とシュルツが王都にやってきたシーンを撮った。

 王都に来る前の流れは、門の少し離れたところから王都に入っていく人々や馬車なんかを背景にナレーション。

 シュルツの声の方がかっこいいと思うんだけど、「こういうのは主人公がやるもんだろ」と言って譲らなかったので俺が喋った。


 それから俺とシュルツが王都の門をくぐる場面。

 俺が手に持っている魔法石は小道具として用意したもので、別の魔法石に反応して光るもの。

 ミュリエラは近くの喫茶店の屋外席でおやつを食べてて、そこに近付くと魔法石が光った。

 ミュリエラの方にその光が伸びて、俺が話しかけて仲間入り。

 仲間に誘う文句は実際に俺が言ったのと同じになった。

 色々みんなで考えたけど、そのままのが一番インパクトがあって面白いということになったのだ。


「ボク、男だけどいいよねっ!」

「男⁉︎」


 それから魔法石に導かれつつ八百屋さんへ。

 八百屋のおじさんにも協力をお願いしていて、少しの間だけ付き合ってもらっている。

 エヴァンスがいつものように値切って買い物しているところに俺が声を掛けた。

 最初は渋るエヴァンス。

 おじさんが、エヴァンスが宿屋暮らしであることをバラし、ミュリエラが家を貸すことを仄めかしての仲間入りである。

 おじさん、演技がうまい。


「タダで済ませてくれるってんなら、仲間になってもいいぜ」

「よろしく!」


 そのまま四人でミュリエラの家へ。

 家に入ると中庭の木の辺りに魔法石が反応する。

 誰がいるのかとみんなで警戒しながら中庭に行くと、木の上でオリバーが眠っている。


 ここはミュリエラの家で、勝手に入ったら犯罪だと言えば、何でもするから許してほしいと。

 魔法石が反応しているのがオリバーだと分かり、仲間入りだ。


「こんな立派な木があるなんて、最高だよ〜」


 一旦撮影を止め、いざダンジョンへ。

 今回のメインイベントである。


 ヒュロスさんにも前もって説明をしてあって、そういうことならとオススメの撮影ポイントまで教えてもらっている。

 ダンジョン内にはいくつかの安全地帯があり、どの魔物も立ち入らない場所が存在しているのだ。

 そのうちの一つを、俺たちのために貸切にしてくれたのだ。


 修練の森にやってくる人たちはみんなヒュロスさんの知り合いだし、そもそも学院の新入生たちが多くやってくるこの時期に修練の森に来る人自体が少ない。

 俺たちはありがたく、その場所で変身シーンを撮ることにした。


「準備はいいか? 目を瞑って後ろ向くきっかけ、間違えんなよ」


 俺たちは顔を見合わせて頷いた。

 リューシードが安全地帯から出るギリギリのところに立ち、数匹のネビットを撮影する。

 それから俺たちに撮映写機を向けたのを確認し、みんなで叫ぶ。


「変! 身!」


 五人の声が重なった瞬間、エヴァンスが撮映写機と俺たちの間に雷を発生させ、目潰しをした。

 練習した通りに着替え、雷の方に向かって走り出すと、その足音を聞いてエヴァンスが雷を消す。

 タイミングを見計らって決めゼリフを言い、ポーズ!

 他のみんなも次々とポーズを決め、最後に俺たちの背後に炎を出した。


 本当は爆発させたかったけど、上手くできなかったので炎で代用。

 爆発に特化した魔法を使う人もいるようなので、いつか手伝ってもらえたらなと思っている。


 ネビットとの戦いになる前に、オリバーが一つの種を成長させた。

 種から芽吹いた蔓が俺たちの頭上を覆い、いくつもの白い花が咲く。

 その花から舞い落ちた花粉が、キラキラと光り輝きながら俺たちの身体を包み込んだ。


「魔法植物ホウジュレン。身にまとった花粉がみんなの防御力を増幅させるよ〜」

「さすがマホグリーン!」

「ぼくの役目はみんなの補助だからね〜」


 花粉の守りを得た俺たちは、それぞれネビットに向かって走り出した。

 撮映写機の枠から外れたことを悟ったオリバーは、すでにホウジュレンの蔓をベッドに寝息を立てている。


「必殺! ピンクトルネードッ!」


 ミュリエラの放ったつむじ風はネビットに近付くにつれてどんどんと大きくなり、ネビットを巻き込んでその小さな身体を天高く跳ね飛ばした。

 急激な気圧の変化に意識を失ったネビットが、地面に落下してくる。

 落下の直前に風のクッションでキャッチすることも忘れない辺り、ミュリエラは丁寧だ。


「必殺、ディープブリザード」


 シュルツの手のひらの向かう先、数匹のネビットが完全に凍りついている。

 結局蹴って砕くことはせず、そのままにしておくことにしているので、シュルツはネビットに背を向け、魔法を放った手を払った。

 少し残った冷気が細かな氷の粒になってシュルツの周囲に漂い、いい感じに映って見える。


「必殺! エレクトリックサンダー!」


 エヴァンスが空に手を掲げると、エヴァンスに飛びかかろうとしていたネビットに雷が落ちた。

 普段ならネビットに気付かれない距離から小さな電撃を与えるのだが、今日は撮影用ということでかなりサービスしているようだ。

 ネビットはエヴァンスに到達することなく、地面に転がった。


「必殺! ボルカニックエクスプロージョン!」


 最後に俺。

 授業でやった時のようにネビットの周囲に火柱が出現し、最終的にネビットを燃やし尽くした。


 エヴァンスがネビットを倒した辺りでオリバーを起こしにいったミュリエラが、タイミングよくオリバーを引きずって駆け寄ってくる。

 撮映写機に映る直前でオリバーを歩かせると、俺たちはもう一度集合し、決めポーズを取った。


「世界の悪は俺たちが倒す! 魔法戦隊、マホレンジャー!」


 リューシードが撮映写機を止め、俺たちに拍手をしてくれた。


「いい感じでしたよ! 練習の成果もでてましたね!」


 俺たちは顔を見合わせ、みんなでハイタッチをした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る